和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

「等伯」 安倍龍太郎作

忙しさにかまけ、雑用に追われ、あっという間に一週間・・・

その間読みたいと思いながらも中々手をつけられなかった本が五冊たまってしまった。
書店で思わず買ったものから、偶然もらったもの、何カ月も前から積んであるもの、つい最近勧められたものと色々。
昨日美味しいシャンパン2本を頂いたのでどうせなら一冊読みながら、今日はこれを飲みきろう・・なんて楽しくほくそ笑む。

で、選んだのが長谷川等伯を描いた「等伯」の上下。

等伯 〈上〉

等伯 〈上〉



等伯 〈下〉

等伯 〈下〉



上も下も発売されている。九月新刊書。


夜八時ごろからシャンパンを片手に読み始めた。
この本は県外の友人が面白いのでお勧めだよ、とつい最近メールで教えてくれた。
元総理大臣二人を足して2で割ったような著者の名前も何処かえらんだ理由。
長谷川等伯は石川県能登の画家。本文に七尾城の歴史、能登の事、キリコ祭りの事、七尾湾や千里浜の事、北前船や富山との往来、福井を通って京都に登ることなど石川県関係者には嬉しい地名や懐かしい行事が出てきて楽しいのは言うまでもない。

それとは別に着物関係を勉強する人にも中々おススメ。
当時の着物柄、禁色のこと、仏具の模様や色、はたまた画材の顔料や能登の牡蠣貝を砕いて作る胡粉の事まで。知っていることを文中に確かめられ「うん、うん」「そう、そう」「そうなんや〜、知らんかったわ〜」と。なにせミノガサや、みのの時代。このころはこんな着物だったんやね〜何て個所も満載。

なにより一番面白いのが等伯の生き方。
武士の荒ぶる血と絵の本質に迫ろうとする苦悩の中で道を極めていく求道者の姿が感動的である。命の危険を冒し、妻子に災難が降りかかろうと絵の為に理性をなくす等伯に「妻や子以上に大切にしなければいけないものがこの世にあるはずもない」という一人の男に一言も言葉を返せない。それも一つの生き方。制止する妻を振り切ってあこがれのやんごとなき女性に騙されていくあたりは読んでいて「等伯、お前もか〜」と。

気がつけば夜中12時前に上巻を読み終える。シャンパンは二本目にすでにかかっており、ここまで来たら今日はねなくてもいいや・・と下巻に読み進む。


いや〜・・・下巻の方が面白かったわ。四時半には読み終えていました。
特に最後の方は読んでいて胸が詰まり、涙が止まらず等伯と一緒になって鼻をかみながら秀吉に直訴している自分がいた。

美術書でかつて見た襖絵や屏風が頭によみがえりあ、あ・・・こういう時にこれをかいたのか・・なんてリンクしていくのも面白く原風景となった能登や福井の海岸を思い浮かべるのもまた楽しいひと時。
着物柄に使われるのはこの絵からかあ・・・なんて納得。

今日は夜10時ごろまで仕事。今日は案外仕事にならぬかも・・・・失礼〜♪





主君への忠誠、親への思い、兄弟の確執、夫婦のあり方、そして息子に掛ける並々ならぬ愛情と期待、才能のある輩との嫉妬や競争心、意趣返しなどを縦軸に・・・人生の先達として禅宗僧、日蓮宗の僧、はたまた茶人、商人、権力者、などが横軸に。そこに時折はいる歴史の急激な流れと持って生まれた運、不運。
どんなつらいことも愛情が人を支える。逆境もはねのけ自らを励まし突き進めるのも、自分を支えてくれる沢山の人たちだと教えてくれる。ほのぼのとしたいつくしみや思いやりも随所にちりばめられていて嬉しい。
生まれながらにして力と才能と運をほしいままにしていた狩野永徳も、どこか痛々しく同情すら感じた。←完全無欠なスーパーマンなどいないのだ。皆与えられた中で必死に生きていこうとしているのだ。恵まれ過ぎるのも又、恵まれなさすぎるのと同じくらい不幸なことなのかも。その中でもがく狩野親子。
私は永徳とその父どちらも案外好きかも。←読んだ人は「えーーーっ!!」と言うだろうなあ。



ちょっと重いけどかなりおススメ。