和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

息抜き〜♪


息抜き・・・
こんな事を書くと如何にも物凄く毎日頑張って仕事している感がある。
息を詰めて毎日生きているわけではない。
むしろ毎日ストレスフリーに近い。
誤解を与えぬように、それはキチンと言っておかねば。


ただその時は、物凄くストレスを抱えていた。
そして自分の怒りに解決方法が見つからないまま、たまたまこの公演を知ったのだ。
そして偶然のようにチケットも手に入ったので何のためらいもなくこの日仕事を休みにした。

「萬狂言・金沢公演」




狂言を見に行くなんて数えるくらいしかない。
いや、狂言に限らず以前見に行った浄瑠璃だってそうだった。
物凄く怒っていた時だった。
特別興味があるわけではなかったのだが、自分で自分の気持ちを持て余して非日常にしばし身を置きたかった。

今回もまさに同じような感じで2〜3時間異次元に行くような気持だった。


「猿婿」(さるむこ)  炭光太郎、能村祐丞、他

「隠狸」(かくれだぬき) 野村萬野村万蔵

「釣狐」(つりぎつね)  炭哲男 野村万禄 他

だった。

   「釣狐」を知らない方のために、簡単に筋書きを言うと・・・

    一族の狐を猟師に捕りつくされた百歳の老狐が、猟師にこれ以上狐を釣るのをやめさせようと猟師の伯父の僧に化けて家を訪ねる。
狐は神であり、狐の執心の怖さを説く。
猟師の改心を得て鼻歌交じりに帰途につく老狐。
ところが、途中で餌のついた罠をみつけて・・・と話が展開する。
餌への誘惑と戦う老狐と、本当は狐である伯父の言動を不審に思った猟師との攻防は・・・。

「釣狐」はそうそう簡単にみられるものではないとよく聞く。
気力と体力を必要とする大曲、極めて重い習物とか。
なら、見られる時に見ておこう・・と。

人間国宝野村萬氏はじめ野村万蔵氏はもとより地元のそうそうたるメンバーによる出し物に会場は笑いを交えながらの大らかで和やかな雰囲気に終始包まれていた。
感想はド・素人の私はちょっと控えさせていただくことにする。



ただこの日とても面白い方と出会ったのだ。
今回はその話。

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪・・・・・


私はちょっとした知り合いの方が出演されるので事前に能楽堂の中でお会いしてきた。




ちなみにこの日の私は総絞りに箔を引いた絽刺しの帯。
小物はからし色。コートは黒のふくれ織。
特別気に入った着物一式にした。
絞りは二割は太って見えるのだが・・・構うものか。
余程の着物好きでないと気にも留めないはず。
実に地味で目立たない着物と帯である。
こういう渋い物を身に着けていると物凄く気持ちが落ち着くのだ、私は。


さて、その方が衣装を付けにいけないといけない時間となり外に出た。
開場を前にして多くの方々が列をなしていた。
私も列の最後尾につき開場を待つことに・・

その待ち時間の中、後ろにいた女性となんとなく話をしだした。
年は私と同じくらいか…変わった雰囲気に満ちていた。

「あなた様は何故に能楽堂の中に?」
と聞かれた。
まるで御伽草子の中の一文。
それが話のきっかけだった。
「ちと・・厠に〜♪」
と答えた。(笑)
誰それと知り合いだとか、ちょっと御挨拶をしに・・とか言うのをためらわれた。
実際中でトイレにも行ってきていたので嘘ではないのだ。


それから30分余り、寒空の中二人笑い転げるほどいろんな話をしたのだ。
「ひゃあ〜・・こんな人本当に金沢にいる?」という位面白い方だった。
どんな話題にもついてくるかと思えば、「ひょい」ととんでもない話に飛んでいく。
知らぬ顔で必死について行くとまたまた「ひょい」と違う分野に行く。
相手の勝手な話題ばかりではついて行くのにこちらは必死なので、
「ええい!!」とこちらが違う話題に振るとこれまた憎らしい位に平気でついてくる。
中でも平安時代の史実に実に詳しい。
30分がまさにあっという間。
しっかし・・・「こいつ、何者?」


お互いに席が違うので会場では右左となる。
自分の席に座るか座らないうちにその女性が追っかけてきて自分の名前を言われた。
なんと、県外の方だった。毎月能楽堂に来ていますとおっしゃるのだ。
そう・・私もこのまま右左になるにはあまりにもお名残り惜しい。
この年では気の合う方は逃すのは惜しい。
私も携帯番号の書かれた名刺を渡す。
「私は滅多に能楽堂には来ませんので・・」と。
そして相手に連絡先を書いてもらう。


夜、電話をしたのは私の方。
何と初対面なのに電話ではそれから二時間息つく間もなく話してしまった。
それも話題はこの日の素囃子・序の舞の小鼓と大鼓のことで。(笑)
なにせ「隠狸」と「釣狐」との合間にちょっと演奏された素囃子である。
こんな話で盛り上がる人は多分、まずいないよね‥と笑いあう。

この日の大鼓の方は以前薪能「俊寛」の時に見た印象深い方だったので手の角度がとか、指の先がどう違ったか、声のトーンも随分変わったなどと話をしたら、その方が宗匠になられる前となられた後の違いなどを細かく解説してくださり物凄く興味深く面白かった。

何年も、何十年も知り合いでもここまで仲良くなれない人が多い中、一瞬で近しくなる人の縁。
面白い。

能楽堂の中は色んなご縁が有相無相」


すっかりリフレッシュ〜♪
美味しいものを食べたいということもなくなり・・・
気に入ったものを買いたいということもなくなり・・・
年を取るというのは一つづつ欲を手放していくことかと思いきや、

話をする・・

という欲がまだまだ健在と知る。
「釣狐」よろしく老いた二人の女は話をするという「油揚げ」にどっぷり浸ったという、落ち〜♪