和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

渡辺綱と茨木

              

  茨木






都大路の夜は更けて
あたり静けき丑三つの
鐘の音さえ凄凄と
陰に籠ろう響き有り


さる程に渡辺の源氏綱は
都の九条羅生門にて
鬼神の腕を切取って
武名を天下にあげけるが
さりながらかかる悪鬼は
七日の内に必ず仇をなすなりと
阿部の清明が喚問により
綱は七日の物忌して
仁王経を読誦(どくじゅ)なし
門戸を閉じてゐたりける


月は朧に白衣の
打掛着たる一人の老婆
館の前に現れて門ほとほとと打ち叩く
聞くより綱はいぶかしみ
かかる夜更けに我が門を
訪れ給ふは何人ぞ


これは津の国渡辺の
里よりはるばる訪ね来たりたる
和殿が伯母に候よ
此の門開き給えやと
言われて綱は声高く
仔細あって物忌なれば
門の内へは叶わず候
今宵明けなば対面せん
一先ず御帰り候えと
いと本意なげに答えけり


あら曲もなや
そもや和殿が幼き頃
伯母がみずから抱きやり
暑さ寒さをしのがせつ
育てあげたる大恩を
忘れ果てしか情けなや
邪険の者よと口説きつつ
声をあげてぞ泣きにける

さしもに猛き渡辺も
伯母の嘆きにほだされて
是非なく門を押し開き
奥の一間に招じけり


伯母は形を改めて
してその腕は何処にありや
一目なりとも見せ給えと
請われて綱は是非もなく
即ちこれにて候と
唐櫃(からひつ)の蓋押し開き
伯母の前にぞ直しける


その時伯母はかの腕を
ためつすがめつしげしげと
眺め眺めていたりしが
怪しやな
次第次第に面色変わり
つっと腕を取るよと見えしが
忽ち鬼神の姿となり


風を起こして飛び上がり
破風を蹴破り逃げんとす
愚かや綱
我こそ茨木童子なり
我が腕を取り返さんため
これまで来たると知らざるや
あら笑止やと叫ぶ声
虚空に響きてもの凄く
身の毛もよだつばかりなり

綱は怒って足ずりなし
計られつるや無念やと
太刀抜き放ち追いすがり
飛鳥のごとく屋根の上に
馳せ上がりつつ如何にもして
斬らんとすれど時既に
鬼神は早も虚空にあり


あたりは黒雲巻き起こり
あたりは黒雲巻き起こり
姿は遂に失せにけり

             (大坪草二郎・作)







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             【 錦心流琵琶演奏会のお知らせ 】
         
         主催 錦心流琵琶全国一水会金沢支部        
         後援 錦心流琵琶全国一水会
         日時 6月15日(日)午後1時 〜 4時すぎまで
         場所 石川県立音楽堂・交流ホール 

        




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私は琵琶曲「茨木」になることが今日、正式に決定した。
上記の歌詞を曲をつけて謡うと17分となるので、弾法を入れて13〜14分にするつもり。
自分の舞台に上がり下りる時間をいれて15分となるので。
何処をどのように削るかが今からの課題。


折角の機会なのでちょっと「シテ」と「ワキ」について触れてみる。
「シテ」というのは歌の中で一番主要な人物。
「ワキ」というのはその大黒柱とも言うべきシテに次いだ次の人物。
ワキはシテを生かすようにやや軽く謡うのが本来の位置。

シテが男、ワキが女というのが一番謡い良い。
どちらも男の場合はワキがちょっと引いた感じに大人しめに
謡えばよい。
しかし、逆の場合もある。
シテが女、ワキが男となるとちょっと難しくやりづらい。
女でもシテとなると重みが必要となる。でないと歌が締まらない。

ちなみに「ツレ」というのはワキから又一段軽く成る。
「トモ」は更にツレより軽く成る。
ツレもトモもちょっと言えばその他大勢にあたるかも。

私は永田錦心著の愛吟集琵琶歌の研究巻1・2を参考にした。
登場人物が軽重をつけて謡うことは聞き手も聞きやすく分かりやすくなるというもの・・・。
先ほどの削る個所もストーリーとして破綻をきたさないだけでなく、「シテ」と「ワキ」がどうなるかによって削る場所も違ってくるのだ。


この歌「茨木」では私は鬼茨木を「シテ」に決めていた。
それ以外はありえない、と。
渡辺綱をワキとして謡うつもり。
さてさて・・・どのようになりますか。

ちなみに「羅生門」では渡辺綱がシテで鬼はワキと思っている。
保昌はツレであの源頼光はトモとなると。
色々異論が出るところだが要は自分が謡いやすく聞き手が分かりやすいのが一番だと思っている。
昨夜の教室では仕舞や謡いをしている方と「シテ」と「ワキ」の話も少しでたのだが能の場合は完全に最初から決定していて勝手に変更できないようである。

琵琶の演奏会は毎回そうであるのだが初めの方より後の方がベテランで聴きごたえがあるのではないか。
長い時間になるので上手な方の歌を堪能しようという方は後の時間に来られたし。
私の歌はあくまで前座〜・・・期待しないで来ていただきたい。
まだまだ未熟者。私は錦心流琵琶 金沢支部の広報担当が琵琶の本職&至上命令と心得ているのである。(笑)
さりげなく・・ここで逃げをうっておこう。(笑)

ただ何でもそうであろうが、知らないで聞くより予備知識が若干ある方が聞く方も分かりよいかと。
ベテランの方々の琵琶は技術もさることながら物凄く音がいい。
鳥肌の立つような琵琶独特の音も楽しんでたい。


こんな機会でないと中々琵琶曲をたっぷり(と、いうより嫌と言うほど・・)聞く機会などないだろうから。
途中入場、途中退席自由。。。ただし、静かに。。。

まずはご案内まで・・・