和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

和泉博山さんに学ぶ

この話が出た時は本当に気楽に考えていた私だ。

話をしてくださったのはブログでおなじみの「変幻自在の爺さん」ことinuwanさんであった。
繭から糸を取り、草木染めを自分でなさる織の作家さんがいるとのこと・・・二つ返事で工房見学に行くことにしたのだ。

ところがお会いする日にちも迫った頃・・inuwanさんからその方の経歴が送られてきた。
読んだ私はびびりまくってしまった。
平成17年までの経歴の紹介だったのだが、その時までで

     織物業界で通産大臣賞、通産局長賞などを複数回受賞
     京都知事賞だけで既に十回受賞されていた。
     瑞宝単光章も受けられている。

現在は西陣織伝統工芸士会の相談役、京都府優秀技術者匠会会員もされている、とのこと。
着物を勉強するまだ入り口付近で右往左往している弱輩者の私には雲の上の人であった。



ひゃあ〜・・・どないしょう。。。。慌ててしまった。

そんな偉い方にお会いしてもいいんかしら。粗相があったらどないしょう。
工房を見学して良いと言われはしたが、どう考えても場違いな私である。
こんな私が出掛けて行き、もし御不興を買いその方とinuwanさんとの友情にまでひびを入れたらどないしょう〜・・・。

根は小心者で臆病な私は色々考えた。でもそれこそこんな機会はもう生涯にないに違いない。
実際勉強できる素晴らしいチャンスととらえよう・・と意を決して工房見学に出かけてきた次第。
決めたら最後、何処までもずうずうしくも厚かましいお婆である。(笑)


で・・・今日はその話。


ちょっとブログで書くにはもったいなくも恐れ多いのだが、書いてもいいよと言ってくださったのでここは厚かましくも書かせていただくことにした。最初はひっそりと自分の胸だけに収めてじっくり楽しもうとも考えていたのだが、例え着物好きな方であっても、中々目に触れることのない世界だし、和装組曲の生徒さんにとってもまたとない勉強の機会でもあると思う。私の文章が如何につたなく下手くそであろうが・・・和装組曲の皆さんは、顎に手をついて読んではいけん・・正座して読むように・・・(笑)



上の写真は京都の名工展25年度の写真集である。
「京の名工」として京都府知事賞を受賞した京都府伝統産業優秀技術者の方々の交流・研さんの場として作られたものとか。
今回私がお話を聞かせていただいた和泉博山氏は青い織の着物を出品されている。写真の左上の着物である。

題は「小華」。
実際に見せていただいた。

小さな野の花に見立てた色とりどりの糸が静かにひっそりと配置されている。

折角なので裏も写真に撮らせていただいた。

細い糸で実に気の遠くなるような細かい作業を丁寧にしかもどこまでも凝った手法で織られている。
話していて糸染めの話となる。
藍を自分で植え収穫し、乾燥させそして細かくミキサーにかけそれを使って自分で糸を染められるとのこと。

藍染めの方法としては生葉染めと蒅(すくも)染めが知られている。
生葉は夏の暑い時期、温度を一定の条件にして染められるが実に難しく直ぐ変色する。
一方蒅(すくも)。藍の葉を積み上げて筵(むしろ)をかぶせて水をかけ発酵させ三ヶ月くらいかけて保存して作る。
日本では徳島や滋賀で作られているのだ。この二つのやり方以外知らなかった。そうそう琉球藍と言うのもあった。
話をお聞きして・・なるほど・・・いろんな方のいろんなやり方あって当然だと納得。
所詮書物で得た知識は実践が伴わないとなんともろいものなのだと実感。

これが乾燥させた藍の葉っぱ。
教室の生徒さんに見せようと少し頂いてきた。
枯れ草のようなすがしい臭い。
お見せしますのでお楽しみに。
そしてこの着物の為に使われた草木染めの糸も見せていただく。


   追記・・・12/1】

 発色の美しいさまざまな色糸ですが、先生の庭にある染材を使って染められているものが多いとか。

     桜・山桃・樫(あらかし、しらかし)・車輪梅・月桂樹・杉
     クチナシ・もみじ・ピラカンサ・モッコク・時計草・茶の木
     刈安   など

 藁灰を燃やして灰汁をつくりその灰汁で生糸をねり絹糸にされているようです。


採取した草木を鉄媒染するのか・・・アルミ媒染するのか・・銅を使うのか・・・
克明に自分で記録されている、それは作り手として当然なのだろうが、惜しげもなく私に見せてくださったのは感動ものでした。
「えっ?いいのですか?」とこちらが思ってしまう。ここに全てのノウハウが隠され保存されているのにと。
「ははは〜・・・なんてことない!!」と。

まさに達観し突き抜けている方のなさることは一味も二味も違う・・・

横の部屋には四台の織機・・・


ちょっと普通の織機と違う。
そう・・・和泉氏が自分で色々織りやすいように改良を加えられたようだ。

綜絖の仕組みもちょっと変わっている・・と言う私に説明してくださった。

糸綜絖の目がガラスでできている。
「目ガラス」というとのこと。

普通はこんなものを使う。

鉄をクロムメッキしたものやステンレスなどの素材らしいのだが、草木染めの糸を使うと金属を嫌うのでその対策の為とか。
簡単に私たちは草木染めというがこんなところまでこだわり工夫している方々に頭が下がる思いであった。
でも説明してくださったり実演して見せてくださる和泉先生の表情はとても楽しそうでとてもこの仕事が好きでたまらない・・とうかがえる。

又、普通の織機では紋紙が横に流れるのに真後ろに落ちるようになっている。
天井に高さがないための工夫されたようだ。さらに横にも色々工夫がされている。
紋紙の話となる。
なんと和泉氏は紋紙も自分で作るのだ。
「えっ?」
驚く私に紋紙のパンチで穴をあける(その機械を通称ピアノマシンという)のも、紋紙を一枚一枚綴じ付けるのも皆自分でなさるというのだ。
「え・え〜っ・・・!!」
直ぐには信じられなかった。

と、言うのは織をする方は自分で一腰一腰手織で機織りされるならともかく
ジャカードのような機械を使う時には「紋紙」というものが必要なのだ。
何百どころか何千、何万という「紋紙」が必要になるのだ。
ちょっと分かりやすくその流れを書くと


   図案(図案家)→ 紋意匠図(紋屋)→紋彫り(紋彫屋)→ 紋編(紋編屋)


という流れになりこの段階が済んだら初めて織屋さんにいくのだ。
織屋さんは「手機」「力織機」「綴機」などでの製織工程に入るのだ。
京都は特に完全分業制が確立しているので織り手の方が草木染めをすると言うのは理解できても紋紙まで作ってしまうと言うのは凄く衝撃的だった。

驚きポカンとする私に笑いながらこんなものを見せてくださった。


紋意匠図である。

なんとこれまでご自分で作られたのだ。
真ん中が和泉先生。
ちなみに「湯のし」までご自分でされるとか。
ここで初めて分かった。
此処まで全てご自分でされるので西陣に居を構える必要がないのだ、と言うことが。
こんな紋紙を使って作られた帯も見せていただく。
(ここで紋紙の穴と緯糸との関係の講義をうけるがさっぱり理解不能
噛み砕いて更に説明くださるが私は既に理解することを諦めてしまった。
頭の中でパンチの穴と緯糸とがつながらない、頭の回線が遮断されたように動かなかった。
何度も説明を受けて時間をかけるのももったいないこと、飛ばしていただく。お恥ずかしい〜。)

「どんなふうに織ったかわかりますか?」と。
緯糸が直角に経糸と交差していないのに、これで紋紙を使って??〜?
手織ならなんとなく「櫛織」風にかな・・とか想像できるのだが。
さっぱり分かりません。理解不能のオンパレードでした。

それにしてもなんと人の度肝を抜く方なんだろう。
ノウハウを隠すと言うことをしない方なのだ。
感嘆と驚嘆と感動の連続の私でした。

そして最後はこの手機を見せてくださった。

今なさっている新しい挑戦。

勿論糸の太さは色々あり、さまざまなのだが・・
和泉氏は蚕一個から取った糸を撚りをかけないで織ることに挑戦されている。
以前「羽衣」と言う名前でとても薄い光沢の良い美しい織物を蚕五個から取った糸で成功されているのだ。

信じられないくらいに細いし何と言っても糸と糸をつなぐのでさえ大変な作業である。
変幻さんがちょっとやって見られたが糸が見事によれてしまい使い物にならなくなった。
和泉先生が「こうして・・こうでね・・」とサ・サーッと結ばれた。

見えますか?左右の糸の細さ・・
ふわりと空気をはらみ柔らかく軽いのが。
写真を何度も撮ったのですがこの写真が限度。
左右の指のところにかろうじて見える糸。
とてもこんな華奢で繊細な糸で織物が織れるとは到底思えぬ私。

老齢ながら遠大なる計画にも果敢に挑戦されているのが嬉しい。
そう・・・人は幾つになっても守りではなく、自分の気持ちに攻めの姿勢でいる、と言うのが大切だと実感。
こちらまで物凄い勇気をもらえたような気がする。

予定していた一時間半があっという間に過ぎ、なんと気がつけば三時間弱おじゃましていた。慌てて帰り仕度となる。

そうそう・・・最後に一つ。
「太子間道」を見せていただいた。

もっと分かりやすいのもあった。
額に入っていたので光を受けてちょっと反射するのだが、右の方の図柄で分かっていただけるはず、

法隆寺の「太子間道」を彷彿・・茜で糸を染められ和泉氏が織られたもの。
「太子間道」は縞を意味する「間道」という字が使われているが法隆寺に残る広東錦(かんとうにしき)のこと。
経糸を五色に染め分けた平織りの経錦。名前は聖徳太子が用いたことに由来するほか、太子屋宋有が愛好したことからの呼称とも言われている。
中々何処でもで見かけられるものではないのに、作られた方によって見せていただいたことも一つの大きな感動であった。


私にとって本当にあっという間の感動の三時間でした。
もしそのあとの予定がなかったら、先方の迷惑も顧みず長居していたこと間違いなし。(笑)
本当に何もかも驚きの連続でしたが、一番の驚きは先生がちっとも偉ぶらない方だということ。
そして一番素晴らしいと思ったことは、想像を絶するような困難な挑戦を実に嬉しそうに楽しそうに語られること。

自分の中でこれでいい・・としないで次々と新しいこと、困難なこと、でもやりたいことに果敢に挑戦されている姿は見ていて物凄く勇気を頂けた気がする。
最近私ごとですが、ちょっと考え込むことが幾つかあった。
その一つに、人に教える事より自分自身が勉強することの方がはるかに好きなのだと分かったこと。
師というものを持たぬ私は勉強したくてもどうも自己満足ばかりになっているのではないかと言う恐れ。
生徒さんが付いて来やすい歩調で学ぶことの自分自身へのいらだち。

今回和泉先生の楽しんで生きておられる姿勢を拝見し、

       私も一人で頑張れるところまで頑張ろう・・と。
       誰かに歩調なんて合わさなくていい・・と。
       誰かの思惑など気にしなくていい・・と。
       自分のしたいことをしたいようにやってみよう・・と。

名工の方々がこれからの自分の師・・そう思うだけでワクワクしてくるのだ。
なにせ勉強することは山の如くあるのだ。
知りたいこと、学びたいことに際限はないのだ。
一つ一つ地道に学んでいこうと思う。
今私は遠大なる計画の入り口に立とうとしているのだ・・とふっと思う。
何と素敵〜。。。何と刺激的〜。。。


帰りの電車の中で何だかふっきれた自分がいた。
とっても有難かったです。

一つの事を長い間やってこられた人、更にそれで結果を出されている方は
人を感動させないではおかぬマグマのような熱いこだわりや思いが身体の此方彼方に沸々とあるのだ。
自分の思いを語られる時のあの目の輝きが生きるエネルギーそのものなのだ。
ふわりと漂う蚕の糸一本を空中で「ふっ」と掴んで手品師のように思いのままに繋ぐあの指先までもパワーに満ち満ちているのだ。
先生の取り組みを目の当たりにしこちらまで刺激されこれからの自分の毎日、頑張らいでおくものか、と思えてくるのだ。

和泉博山先生、そして奥様、旧知の如く優しく穏やかに接してくださりありがとうございました。
したいお仕事があったでしょうにこんな未熟な弱輩者にお付き合いくださり本当に心より感謝申し上げます。
先生の話の10分1も付いていけてない私でしたが、分かるように噛み砕いて根気よく説明してくださり御礼申し上げます。
もっともっと勉強しなければ、と心に誓いました。

又、一面識もないのにブログ友と言うだけでお付き合いくださった変幻さん・・・お時間を取ってくださりありがとうございました。

今回残念ながら時間の関係でお会いできなかったエメラルドお嬢、あい済みませぬ。
次回にはきっと時間を設けます。その時は何処かで一献。(笑)



鬱々としていた自分にちょっとふっきれて新しいステージに登れたような気がしました。
出会うことのできたご縁に心より感謝いたします。


           【来年に向けて】

来年は京都の伝統産業会の工芸士の方に直々に学ぶ機会を得たいと大それたことを考えています。
勿論、和泉博山先生のご厚意によるもので先生の御厚意なしで実現はできません。
業種、分野を超えて交流することで研ぎ澄まされた技、鍛え抜かれた技術、黙々と地道に生きる人の熱い思い、
着物愛好家の方々にも、又、着物にまだ親しみのない方々にも爽やかな風、作り手の熱い心をお届けできたら・・と考えています。
着物にまつわる色々な分野の事をこのブログでも発信していけたら物凄く幸せだと感じています。
今までとはまた一味違うステップアップした和装組曲を目指します。
どうぞ皆さん、期待してください。そして応援よろしくお願いいたします。
           (最後は選挙運動のウグイス婆みたいになりましたが。。深謝。。。)



追記〜♪】

ブログにアップしたのを変幻さんに確認願いました。
間違いは複数で見た方が発見できるので。
で・・・写真を頂きました。
その写真を追記しますね。

撮られたのは「変幻自在の爺さん」ことinuwanさんです。
流石に同じ写真を撮っていても素人の私とは数段凄い〜!!

着物の色や地模様、帯の柄などがくつきり、はっきり、分かりよい。

ついでに・・・・
私と先生との会話の様子を撮ってくださったので。

私が真剣に集中して拝聴している様子や、何処までもおおらかで会話を楽しんでくださっている先生の様子が分かっていただけるかと思います。

やはりプロは凄いね〜。。。
いろんな意味で感動させてもらいました。

みなさん・・・ありがとうございました。