和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

三度黒(さんどぐろ)


黒に染める染色技法を「黒染め」と言う。

平安の御代には墨を生地に付着させる技法。
式服や紋章が出現する時と黒染めの技法が行われる時と関連するのではないかと言われている。

現在黒の染織技法は二通りある。喪服や黒紋付に使われる「浸染」と黒留袖などに使われる「引き染め」である。
私の母などは「浸染」のことを「ドボン」などと言っていた。生地を染液にドボンと付けるからなのではないか。
柄を丁寧に描くときは「引き染め」でないと綺麗にできない。当然「引き染め」の方が値が張る。

また絹布を黒染めする場合、昔は最初紅色で下染めした後、黒で染めていた。

その黒は「檳榔子」(びんろうし)の果実で黒く染め上げた。それでそんな黒を「紅下黒」(べにしたぐろ)または「檳榔子黒」(びんろうしぐろ)と呼んだそうだ。この黒い色に近い色は時々目にしたのではないか。
と、いうのはお葬式や結婚式で黒一色の時になんとなく黒でも赤味のかかった黒、茶色に少し変色した黒として目にした記憶がないだろうか。紅で下染めしたことによって穏やかで深い味わいのある黒に染められはするのだが、時間とともに下の紅の色が出てくる・・という欠点がある。
それを解決するために紅色で下染めせず「藍色」で下染めする黒もある。「藍下黒」(あいしたぐろ)という。
これは時間がたってもあまり変化しない。青みがあるのでどちらかというとちょっと冷たい黒ともいえる。
現在は紅下黒は少ないように思う。

それが黒染めに関しての話・・・・
いつまでも「三度黒」の話がでてこない・・・(笑)
もうすぐだよ〜・・今日は仕事が夜遅くまで混んでいる日なので急がないといけないのだ。

実は先日呉服屋さんへ行ってきた。
私は時間があると時々色々何処でも覗いてみるのが好きなのである。
ただ、最初はどこのお店でも皆さん買ってもらおうという気持ちが強くとても愛想がよい。
段々、こいつは買わないぞ・・・と見切るととっても愛想が悪くなる。(当然か・・)
最近では私は色々見てもたやすく買わないことが知れ渡り何処の店に行っても寂しいことに誰も相手にしてくれないのだ。まあ、放っておかれるのも気安い感じでそれはそれでいいのだけれど。

ところがそんな中でものすごく気持ちの良い店がある。

いくらでも私を遊ばせてくれる。そしてお店が混んでいない時は色々話相手をしてくださったり、教えてくださったりするので時間のある時はいつも勉強させてもらっている。
今日はそこのお店での話・・・

私の顔を見るなりご主人、
「今届いたばかりの素晴らしい反物があるのですが、見ます??」と。
「見たい、見たい、〜♪」
届いたばかりの染料の匂いのするような黒い訪問着。
で・・・それの地色が「三度黒」。真っ黒。光沢があり深い黒。

「三度黒」というのは京黒染めの独特の技法。もともとは植物染料と媒染剤を三回交互に引き染めして深く濃い黒に染めるやり方をいい、京都では黒留袖に使われる染色方法。はたして今でも植物染料を使っているかどうかは知らぬ。多分化学染料だろう。ただ三回繰り返して染めるので手間暇がかかり値が張るが美しい深みのある黒となる。

その時に見せていただいた訪問着、訪問着なのに留袖のような「三度黒」の黒の生地が面白い。
生地も駒糸を使ってあり光沢がありとても美しい。

同方向の撚りをかけた片撚り糸を二本以上まとめて逆の撚りをかけた糸の事を諸糸というのだが、その上撚りと下撚りが非常に強い諸糸のことを駒糸という。少しシャリッとしていて夏ものに多く駒絽、駒お召などがあるのだが、その糸で作られた生地だとのこと。撚りが強い分とても光沢があることと、染料の発色がよく深く味わいのある色に染まるようだ。

私は訪問着などほとんど買わない。着物は買うとしても無地か江戸小紋、紬あたり。そのご主人、私に買ってほしいという意図はこれっぽっちもない。出来上がりの美しさにすこぶる感動し一緒にその感動を分かち合いたいだけ。本当に着物が好きなのだと伝わってくる。
柄行きは俵屋宗達の屏風から模写した鶴、白い槍梅・・それだけ大胆なものだった。
こんな訪問着を着ていたら一躍スターだね。私は柄よりも黒い色に感動してしまった。
お見せできればいいのだが、なにせ出来上がったばかりのものだし、第一「写真を・・」などといくら厚かましい私でも言えやしない。言えばきっと嫌な顔をされずにニコニコと「いいですよ」とご主人は言われるはず。だからこそ絶対に言うべきでないのだ。それくらいの常識は持っている。

色々な黒染めがあるということ、又特別な黒染めがあるということを、同じような黒に見えても皆違うということを、今日は分かってほしかった。染める糸や生地によっても光沢も手触りも雰囲気も違う。自分が何を目的にその色を着るのかを考えて、わずか黒一色でも何処までも勉強できるのだと、分かってほしかった・・
加工による糸の名称としては「諸糸」「駒糸」の他に「壁糸」「撚り糸」「片撚り糸」「節糸」などがある。

は、は、は、・・・・最初からこんな長い文を書かず、最後の四〜五行だけ書けば済むこと・・と誰か言うぞう〜
きっと。・・・む〜ん・・・確かに。
此方へ行き、彼方へ行き、紆余曲折しながら行きつ戻りつ書くことが楽しいのよ、私。


読む人が簡潔に結論だけ・・・というなら
時代小説や歴史小説などいらぬ・・・年表さえあれば事足りる・・ということになる。
そういう風に望む方には謝るしかない・・・(笑)
春の芽ぶきの写真でも見て堪忍してくだされ〜
木蓮の蕾。。。。