和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

素足で高級料亭〜?

前々回あたりのいろは会の時に私がした話。



何年か前の和装組曲生徒A子さんの経験談
かなり前の話なので細部の記憶がややこしいので若干の記憶違いはご容赦を。

親しい職場の人たちと浴衣で花火を見に行った。
楽しいひと時を終え、さあどこか食事にでも行こう・・となった。
歩いて行ける距離の所にみんなで「此処にしよう」と。
ところが花火の見物帰りの客でごった返し、沢山立ち並ぶ近くの店はどこもここも一杯で入れない。
年長者の方(社長さんだったかもしれない、はっきりしない。)が皆の分をおごるから、ここにしよう・・と、とある高級老舗料亭の前で足を止められた。
お腹も随分すいているのでじゃあ・・ここで、となる。
ちょっとためらうA子さん。
たまにはいいじゃあない・・と皆に促された。
彼女のためらいは浴衣だったから。足は素足に下駄である。
でもおなかをすかせた同僚を自分一人のために又違う店に・・とは言えなかったと。
本人曰く、
「当時はそんなに高くはなかった。ただ物凄く気が引けた、素足で下駄の私だったから」と。
どうしよう・・・と随分迷ったが、年配者の方は疲れ切っていたのと、他の皆さんはお腹がすいていたのでもう歩きたくはなかったようでもあった。
ためらいながら料亭の暖簾をくぐる・・・


お店の方が出てくる。
どうぞどうぞ・・と靴を預かったり、部屋に案内したり・・と。
でその方が、A子さんの足元を見てちょっと息をのんだのが伝わってくる。
彼女は自分で素足だったことを気にしていたので中居さんの顔をちょっとまともに見られなかったらしい。
「すみません、素足で。・・花火を見ての帰りなので・・」
と一言、蚊のなくような声で詫びたらしい。
明らかに中居さんのムッとしている雰囲気が伝わってくる。
うちは素足で入るようなお店ではないですよ…とまるで思っているような雰囲気もあったと。
料亭の名前を聞いて、ああ〜あの料亭ならA子さんの思い込みばかりではないと私も思う。
その中居さんは部屋へ案内する途中に、
「次からは足袋をご持参くださいね」
というようなことを一言、強い口調で言ったらしい。
確かに・・中居さんは知らないであろうと、教えてくれただけの一言だったやもしれぬ。
ただ十分わかっているA子さんにしたらその一言は更に自分の過失を責められた一言となった。
老舗の廊下を歩きながら、A子さんは更に小さく身を縮めたようである。

確かに素足だった自分が悪い。
自分で自分の不手際が分かっていた分、そこのお店で食べていても喉につかえるようで本当に自己嫌悪だった、早く帰りたかったと、彼女は話してくれた。

そう、いついかなる時にどんな状況になるやもしれずバックの中に簡易のソックス型の足袋とか、フットカバーを入れておくと良かったね、と私。
たとえ白足袋をはいていてもどんな状況でその足袋が汚れないとも限らない。若い時にバスの中で学生さんに足を踏まれ白い足袋にズック裏の黒いあとが付いたことがある。朝早くてどこの店も開いておらず、泣きそうな気分で汚れた足袋で先方に行った時の自分の記憶とダブった。先方の玄関先で足袋の汚れている訳を言い訳し、汚れた足袋であるから中に入ることを固辞し逃げるように帰ってきた思い出。自分の不手際で犯した失敗だが、何日も立ち直れなかった記憶でもある。必ず予備の足袋をバックに入れておくのもこれまた和装の心がけだと若い自分の苦い経験でもあった。ストッキングでも予備のものを必ずバックに入れるのは普通の事。今ではコンビニに行けばすぐ手に入れられるのだが。
「それが勉強できただけでもよかったやないの」と私。


で、この話が出た時に期せずしてもう一人B子さんが話したこと。
そのB子さんも実は昔から続く金沢のこれまたとても古い老舗料亭に浴衣で出かけたというのだ。
ご本人の弁が面白かった。
「だって浴衣着ているもの。なんたって民族衣装よ。浴衣着て素足でない方がおかしいでしょ?私なんて何とも思わないどころか、浴衣だからいいでしょ?の勢いだった」と笑う。
ここでみんなで大爆笑だった。若い時は実に勇ましい〜。こういう勇ましさも若さのさっぱりとした清々しさ。

玄関で中居さんが部屋に案内してくださった。部屋にはいり、座ったところで料理が運ばれてくる。
先ほどの中居さんが静かに彼女の横に来て耳打ちする。
「エアコンが利いています。素足ではお体が冷えます。どうぞこれをお使いください。」といって簡易型の足袋ソックスを横においてくださったと。
「ありがと♪」と喜んで使わせていただいたけれど、あれは私に恥をかかせないようにという配慮からだったのね・・・と。
今の今まで気がつかなんだわ・・・と。ここで更に大爆笑だった。


これが場所が場所なら、ひょっとして帰りしなの請求書に物凄い足袋代金としてついているかもしれぬ。
あくまで素足で来た方への間の悪さ、バツの悪さを消してくださる配慮だったに違いない。

もし、お客さんがすぐ「素足では駄目だったんだ」と気が付いてくれれば、次からは気をつけてくれるはず。もしすぐ気が付かなくてもいつかそれを知ると、この料亭の評価は確実にあがる。あの料亭ならそこまで中居さんを仕込んでいる・・というのもうなづける。どちらにしても対応の違い、たった一言添える言葉の違い。人の心を萎縮させるか、はたまたほんわりと温めてくれるか…本当に言葉というのは面白いものである。

ちなみに私は行くところがどこであれ素足だということにあまりこだわらない。
今は素足でも本当にみなさん綺麗にしていらっしゃる。
むしろ素足で過ごされる方の方が実に手入れもしっかりなさっていなさる。
ストッキング一枚くらいはいていても汗や油は床にも畳にしみとおる。
素足の方が汚くて足袋やソックスをはいている方が綺麗、とも一概に言えない。
すこーし汚れた白足袋もあれば、汗の匂いのついたソックスもある。
ある観光のお寺などは真新しい白いソックスを入り口で売って居る所すらある。



ただどんな時も相手のある事。
相手が不快に思う事は避けた方が無難である。
そして例え美しい白足袋をはいていても、いつどこでどんな風に自分の落ち度でなくて汚く汚れるかもわからないのだ。
バックの中に予備の白足袋を入れておくことをお勧めしたい。
何よりその方が自分が安心だから。



昨日は金沢、犀川沿いで花火大会であった。
華やかな浴衣で若い女性が一段と綺麗な事だったろうと思う。
男性の浴衣もこれまた凛々しくて恰好よかったに違いない。

花火の音を聞きながらふっと思い出したので書いてみた。
どんなことでも、知らないことはある。
いや、知らないことの方がはるかに多いのだ。
世間の人が大抵知っていても、
「え〜っ!!!そうなの?知らなかった。」
ということの一つや二つ・・・三つや四つ・・・五つや六つ・・・十や二十・・・・山ほど・・
長い人生にはそれこそ一杯ある。
知らないことは決して恥ずかしいことではない、と思う私は。
ただ一旦知ってしまったら、素直に次からは気を付けよう。
私はそれで良いと思う。

「知りませんでした。本当に失礼いたしました。次からは気を付けます。教えてくださりありがとうございます。」

もし、自分の無知や不用意さで、赤面ものの経験をしてもきちんと教えてくださった方に、自分の非を詫びる。そして礼を言う。
それをきちんと丁寧にしかも堂々と言えたら、それって凄くない?
教えてくれた人に少しばかりの「こんなこともしらないのか」という揶揄の気持ちがあっても、その教えてくれた人を一瞬たじろがせるほどの清々しい凛々しさだと思う。

今回ブログに添えた写真は金沢市立中村記念美術館のお庭風景。
先日香道の道具展を見に行って来た時に撮ったもの。
金沢の中心にこんな大きなお庭がある美術館って素敵ね。