和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

空から謡いが降ってくる〜

金沢は
          空から謡いが降ってくる
                       
                    町と言われていた・・らしい。

詳細はわからぬ。聞いたことがある。
「芸事が盛んな町」と言うことらしい。
昔はどこの家にも職人さんが出入りする・・
植木職人であったり、瓦職人であったり、大工さんだったり・・
木を剪定しながら謡いを謡う、瓦をふきかえながら、家を直しながら謡いを謡う。
だから「空から謡いがふってくる」のだと。

実際は謡いだけではない。

町の小道には三味線の音、小唄、篠笛・・・
時には茶道、華道、書道、詩吟、陶芸、墨絵、・・
金沢は誰もかれも一つや二つ芸事を持っていた。
趣味ではない、あくまで芸の域なのである。

ある時・・・
ご近所のおばあちゃんが花ばさみを持ってじっと椿を見ている。
そしてすっと手を伸ばし、パツリと一枝を切る。
そのまま小さな花瓶にスッといれる。
一つの葉も一つの蕾も切らぬ。
だから切る前にあれだけの時間がかかったのだ。

ある時・・・
神社で子供たちが祭太鼓の練習をしていた。
それまでタバコをふかしていたじい様三人のうち一人がスックと立ち撥を握る。
すさまじい勢いでたたく撥の音、一同唖然。
あとの二人のじい様がその音に合わせて気迫のこもった獅子舞を踊る。
能登のご陣乗太鼓さながらである。

こんなこともあった・・
米寿のお祝いの席でその方の三人の弟さんが参加。
皆八十歳を超えている。
「祝の席に招かれたがお返しができぬ。それで・・」
と一人が自作で即興の漢詩を披露した。一人が謡いを謡った。
一人がそれに合わせて舞った。奥伝や皆伝の腕前とか。
喜びの表現は金や物のやり取りだけとは限らぬのだ。
気持ちのやり取りなのだと知った。
多分こんなことのできる八十代が一杯いたのだ、金沢には、その昔。

今人生を渡っていく通貨があるとしたら
現金であったり仕事での地位や名声かもしれぬ。
人によっては家族との時間や友人との時間かもしれぬ。
昔の金沢人はその中に芸事がどーんと入っていたに違いない。
芸事を通し豊かな人間性を磨いていたに違いないのだ。


はるか、昔の話・・私の幼少期の時のこと。

                  ・・・ 今は知らぬ。