毎日犬の散歩に下駄をつっかける。
ジーパンに下駄。
友人に言わせれば「変な人」に見られるらしい。
気にしない主義である。
そんなある日のこと・・・
鼻歌交じりに朝の冷たい空気を胸一杯に吸い込んで・・いたその時・・
下駄の鼻緒が突然プツリと切れた。
思わず転んでしまった。あわてて起きる。誰もいない。
下駄の鼻緒がプツリと切れた・・・♪
すげてくれる手ありゃしない・・・♪
どこかでそんな歌が聞こえそうである。
どうしよう・・・誰もいない・・・
これが江戸時代なら・・
「姐さん・・どうしなさった?」
粋でイナセな兄さんが着流し姿もあでやかに駆け寄ってくる。
「おいらの膝に足をのっけな!!」
とかかんでくれる。
私はいつの間にか坂本冬美の様相・・
そのお兄さん、懐から・・そう・・吉原つなぎの模様の手ぬぐいなんぞだして
「ピーツ」と裂いて鼻緒をササッとすげ変えてくれる・・
その手つきの鮮やかなこと、見とれる私に
「気をつけておかえり下せえ」
というか・・言わぬか・・・
あっという間に姿見えなくなる・・
はず。お江戸なら・・・
ところが
「誰か・・・〜」
と小さくつぶやいてあたりをみても
はるかかなたに鍬を担いだじい様が通るだけ。。
目にも心にも「ピューー〜ーーッ」 ←風の音。。。
しょうがない、自分で直そう。
早く行きたくてしょうがない犬の綱を左足で踏み、
手提げを探る。
ハンカチは四隅が縫ってあるので裂けぬ。
犬の糞とり用のナイロン袋を見つける。
鼻緒のところに通してなんとか結ぶ。
「私って天才!!」
頑張る自分に別の自分が可愛く拍手。
なんとかして家にたどり着いた・・・めでたしめでたし・・
その時はいていたのがこの「山葡萄の下駄」
奥州・出羽の雪深い山の中、六月・七月の梅雨時に山葡萄が水分を含んで皮をはがしやすい時に収穫。蔓はトチやブナにまきつき木こりの方はナタで集めるとか。
使い込むほどにつやが出て百年は持つ代物。最後は漆をひいたような黒光りのものになるという。
この下駄、毎日使ってはいるが、まだ十三年あまりしか使っていない。
素足に履くので気持ちがよい。
鼻緒は泥染めの大島の端切れで作ってもらった。
鼻緒は半分ねじって穴に入れてもらわないと長時間は痛くて履けない。
雪の日もはくので裏にはゴムをつけて滑り止めをして使っている。
実用品でありながら時間とともに存在感を増す。
使い込むほどに愛着を感じ手放せない品になっている。
こういうものこそ本物だと秘かに思っている。