和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

成人式と寄る年波

私が初めてお金を貰って成人式の振袖を着せ付けたのが30才頃・・・調べてみたら、正確には31才の時だった。

勿論心配で前日まで何度も何度もイメージしながらの日々だった。

振袖の色は明るい黄土色の本式の加賀友禅に銀地の矢羽根の模様の袋帯だった。

とても若い方が選ぶ色ではなかったので今でもはっきりと思い出せる。

1メートルのストレートヘアのつけ毛をしたいというので帯結びは文庫のアレンジにした。武家のお姫様のイメージだった。

あれから何人に着せてきただろうか。

多い時は朝の2時や3時から部屋を温め寒くない様に、段取りを組みながら10人近くの方々を着せ付けてきたことも有る。段々年を取るごとに沢山の人を流れ作業のように着せ付けることに嫌気がさして、本当に丁寧な仕事に拘って仕事の量を減らしてきた。

ここ4,5年は成人式の日は1人のみの限定にした。どうしてもお友達で一緒に着せ付けて欲しいという場合だけ2人受け付けた。

ただ本当に最近は疲れてきたことや、握力が衰えて思うように短時間でササっとできない事が多くなってきた。目に見えて体力の衰えが激しいと自覚することが多くなってきたので、今年こそは振袖は受けないでおこう、と固く誓っていた。

現に春先に2人断った。

中々納得しない3人目には「寄る年波でとてもお金を頂けるような結びが出来なくなったの。握力もないのでお客様に迷惑はかけたくないのよ。」と一番言いたくないことまで言わないといけなかった。

 

だから今年は誰にも着せ付けない予定だった。

ところがどうしても、という方が電話してきた。

勿論最初はほかの方と同じように断った。

でもその方は私がとてもお世話になっている方で恩のある方だった。

今度成人式を迎える方とは別にそのお姉さんにも成人式の時に着せ付けた経緯もある。

そのお姉さんもさることながらそのお母さんも私の着物ショーの時にはとてもお世話になってもいた。ご夫婦で日々うちのパソコンの不調を嫌がらず見ても下さっている。

で、成人式の当日の着せ付けだけ受けることにした。

 

前日の夜、中々力の入らない右手をお風呂の中でマッサージしながら

「明日は何としても頑張ってね。多分これが最後だと思うので。」

と声を掛けていた。40年近く振袖を結んできた私の手。

勿論普通の着物も今でも着せ付けるが、振り袖はやはり替わり結びがあるので他の着物より神経を使う。力も使う。体力も使う。何より、集中力が要る。一発で決めていかないと立っているその方が疲れてくるのだ。ましてその方が一番きれいに見えるようにしてあげたい。結婚式は何度もあるかもしれないが、成人式は生涯に一度きり。輝くような女性になってもらいたい。本人が自分をどう演出したいかも考えてあげたい。

着物

帯の裏

レンタルの着物だが、帯はお母さんの成人式の時におばあちゃんが作ってくださったこの帯を使いたい、とのこと。おばあちゃんがきっと喜んでくれる、と。

表は小さな蝶の柄、裏は金一色。

「どんな結びがいい?」

と聞くと

「格好いい結びがいい」

と。

幾つかトルソーに着せ付けてメールで送る。

で、決まったのがこれ・・・

 

打ち合わせして決まった結び

帯裏の金色で花を作り、蝶の舞う表で末広の扇子。

バラの花の周りに蝶が乱舞する、イメージ。

バラの華やかさと共に、扇子のシャープな線で恰好良く。

喜んでくださったので、よし、じゃあこれでいこう・・・・と。

トルソーでの着せ付けと人の身体では若干違う。

身長や帯の長さを考えたら、扇子のひだは少し減るに違いない。

前をどうしよう・・・

 

帯上げの処理

とりあえず平凡だがこういう感じでと。

 

当日・・・6時過ぎヘアメイクさんが来る。

大人っぽい印象で、クールに恰好良く・・・とご本人のイメージを共有する。

このヘアメイクさんの振袖も私が着せ付けた。

美容院の方々に振袖の結びを教えに行っていた時の美容師グループのうちの一人。

当時の事など話しながら月日のたつ速さを2人で懐かしんだり、嘆いたりしていた。

 

久しぶりに私の結びを間近でみる・・・と食い入るように見ていた。

「バラはそんな風にするのね」とか。

「扇子はそんな風に止めるのね」とか。

は、は、は、・・・見ていてもこの結びは簡単にはできないよ、と。

形は何とかそれらしくはできても、壊れないようにするのは案外難しい。

やはり長いことやってきたことなのであっという間に終了。

30分かからず出来上がり。楽しかった。(笑)

本人の了解も、お母さんの了解も取ったので写真上げるね。

 

 

 

裾が若干長めなのはホテルでの式だから、草履の高さを計算した。

下からのアングルなので帯結びが分かりづらいに違いない。

 

帯はこんな感じ…

 

 

トルソーに着せ付けた時に比べて、ひだが一つ減ったが概ね予定通り。

前は・・・

 

 

お母さんの用意された水引の髪飾りが一つ余ったので利用させて貰った。

背の大きな方なのでこれくらいのボリュームでもいいだろう。

何はともあれ一件落着。

身体に補正をしていない分、とても楽だったと思う。

夕方、全く着崩れせず楽だったと聞き一安心。

四十年近い振袖着せ付け人生を振り返り感無量。

もうこれからは若い方に譲ろう…なんて考えていた。

 

でも・・でも・・・着物を触るのはやはり好きだな、私。

 

毎日10000歩は歩いているというのに、体力ないなあ・・・ホント。

ちょっと疲れた。