前回「満員御礼」を書いた後、こんなに感染拡大するなんて予想もしていなかった。
嬉々としてイベントを執り行う予定が小舟が激流に飲み込まれたような状態となった。
何度も今年の会は開催中止にしようと考えた。
正気の沙汰でないとも言われた。
でも私の中で引けない気持ちもあった。
緊急事態宣言がでてイベントが無理なら諦めもした。
でも止めないといけない理由が見当たらなかった。
ただ自分の中の恐怖が決行の判断を揺るがしていた。
もし、クラスターになったら・・責任とれるのか‥と。
最後に決めたのは・・・・「一期一会」という言葉だったかもしれない。
今日という日は後にも先にもこの1日。
しかもこの一瞬という時間を大切なものとして一生懸命お客様をもてなさないといけないという言葉。
事務所の入り口にのれんとして使っている。
そうだ、来年はないかもしれない。
ひょっとして・・私がもうこの世にいないかもしれない。
お弟子さんたちも同じではないに違いない。
そして来てくださるお客様も、来ようという状態ではないかもしれないから。
しかも加賀支部創立の1周年記念の日。
何よりこの日私が琵琶で弾く予定だった「井伊大老」がこの言葉をとても大切にして自書の巻頭でよく引用されて世に広く知らしめた事も知っていた。
琵琶の世界だってそうじゃないか・・・
死んでいく人の無念の思いを歌っている。
義や忠や信に徹し死んでいく人たちの事を思うと、その死が納得したものであってもお気の毒だと、お可哀そうだといつも自分で思っていたじゃあないか・・・なら、生きている自分は今この時を大切に生きないといけないのではないかと。必死に一生懸命生きないといけないのではないか、と。そして決めた。
できることをとにかく粛々とやろう・・・
心は決まった。
出来る精一杯の事を一生懸命、真面目にきちんと粛々とやろう。
リスクを一つづつ減らし、来てくださる方々が少しでも安心できる状態に持って行こう。「イベントは絶対やってはダメ」と県から言われない限り準備はしようと。
万が一、大半のお客様が来てくださらなくてもいいじゃあないか。
一人でも聞いてやろうという人がいたら私はやるべきだ、と決めた。
お弟子さんが感染が怖いならそれはそれで欠席してもらってもいい。
そこまで人を拘束すべきではない。
でも最後自分一人になってもやろう・・・と。
色んなご意見や不安や誹謗がある中、開催した。
キャンセルも3分の1出た。
でもそれは構わなかった。
みんな怖いのだ。不安なのだ。
場所は老舗高級料亭金城楼。
110畳の丹頂の間に50名のお客様。
廊下の窓はこの状態。
60畳用の最新の空気清浄機を2台備え付け。
舞台は勿論アクリル板設置。
見掛けは今回は気にしないことにした。
兎に角安全第一。
舞台の前ではなく後ろの方に毛氈を敷き、少しでもお客様と距離を取る。
しかも舞台下のアクリル板からお客様の席までは3メートル以上空けた。
お客様の席どうしは当然1.2メートルは空けたが、更に夫婦や親子、ご家族、友人というグループによって少しずつ変えた。グループとグループの間は2メートルはあったはず。一つの家の中で過ごす方々は椅子を寄せることで他の方との距離が更に空く。その一方、どんなに親しいご友人たちでも同一家屋で住まない方々は決して席をくっつけない。前も横も十分距離を取るようにした。
特に体験もあったので物凄く考えた。
お客様との距離を維持するために、又琵琶を教える時にも如何に距離を保つかを。
お店に入るときは勿論、部屋に入るときも、消毒を欠かさない。琵琶を触る時も隣の方に渡すときも手指の消毒をしていただいた。万が一拭いた手ぬぐいはすぐ捨ててもらう。
更に歌を歌った後にも出来るだけマスクを交換してもらうために予備のマスクも配布した。
指導場所は三か所使った。
空気清浄機の前二か所と、別室の開け放った窓の前。
こちらは1テーブルに1名様限定。
この空気清浄機、私たちのイベント前に金城楼さん全ての部屋で設置されたものでニュースにもなった光触媒でのウィルス除去の清浄機。
椅子を一つ飛んで横の人・・・と思うでしょうが、間の人は琵琶を弾く人なので声を発する方はいない。ご夫婦や姉妹の方々、職場が一緒という方々がいらしたのだが、これはしっかり守ってもらった。
つまり、丹頂の間、相生の間、平成の間、そして私たちはこの日控室末広の間・・・と金城楼の大きな部屋は全て加賀支部で貸し切り状態となった。
地下の平成の間は200畳は優にある空間。
50名のお客様を2グループに分け時間差で食事をしていただいた。
勿論アクリル板は当然として、テーブルとテーブルの間は120センチ以上離すし、対面とならないような座席位置の配置を考えた。つまりアクリル板の向こうには誰もいないという状態で食事をしていただいた。
しかも同じテーブルには、ご夫婦、兄弟姉妹、お孫さんと祖父母、といったいつも家族で一緒にいる方限定。お友達や会社関係の知人という家庭を別にする方はテーブルの端と端、180センチテーブル2つを縦に並べて端と端なので300センチは離れる勘定となる。黙食を明示し静かに食事の時間を過ごして頂いたわけだ。200畳に30人の計算である。しかし・・・しかし・・・
万が一・・・ということもある。
エレベーターは足の悪い方とご年配の方のみ。
出来るだけ階段での移動をお願いした。
しかし感染の怖さはきりがない。
もし自覚症状がなくても、参加者の一人でも後で感染していたことが判明した場合も考えた。座席表を作り座席位置を把握、グループとしてお食事して頂いていれば周りに迷惑をかける事も最小限となるに違いない。ご家族やご夫婦でそれは完結するのではないかと考えた。
体験の後の鑑賞までの間の小休止。
こんなユッタリ人を発見。
金城楼の床の間に腰掛ける・・・という大胆な二人。(笑)
実は下にきちんと座れないのだ。
奥様は骨盤骨折で。
この二人は私の知り合い。
懐石フレンチ「くりゑンテ」のシェフご夫妻。
ミシュランの星を何の未練もなく即、断った人達。
どんなレストランでもミシュランの☆を喉から手が出る位欲しいのが相場だと思っていた。
断ったご主人曰く
「そんな星がなくてもうちの店に来てくださる方々の方が、とても大切だから」と。
もし観光ガイドにでも載れば(もう載っているけれど)、そういう観光客が押し寄せて本来のファンのお客様が予約を取れなくなる…と。
実際こんなに感染が広がるコロナ前から、このお店は一日2組しかお客様を取らないのだ。ゆっくりと静かに楽しんで頂くために。今は一組かもしれない。
効率だの利潤だとかに人が振り回されている時でも、静かに自分流の心地よさを追求し小さなことに喜び楽しみを見出せることって素敵じゃあない?しかもそれをお客様と共有し楽しんでもらおうと努力している姿はなんだかとっても感動的。多分そこにこれからの時代を生きる意味があるような気がする。でもこの方々には至ってシンプルな生き方かもしれない。世の中本当にいろんな人たちがいるけれどこういう自分の気持ちに自然体で心地よい時間をゆったりと過ごしている方って物凄く魅力的。
多分このコロナ騒ぎの中で、人は自分の生き方がこれでよかったのかを自問自答し修正していくのかもしれない。私たちだってイベントのやり方を修正し、進化させていかないとね・・・・そんなことも考えさせられた一時でもあった。
一年間この日の為に準備してきた皆んな・・・お疲れさまでした。
皆んな本当によく頑張ったね。
皆さんを誇りに思う雲龍柳です。
九月からは来年に向けて又頑張ろうな。
私を含めて皆で一回り大きくなったかも…と感じたこの日。
みんな、恰好いい加賀支部の女戦士たちさ・・・・♪♪♪
陽子ちゃん・・来年は一緒に写真入ろうね。
私たちのこの会が8月1日、済んだ。
この日のアンケートでは「良かった」のご意見が圧倒的。
そしてお弟子さんたちの携帯には参加した方々から「楽しかった」の声。
琵琶の演奏会が楽しかった? 噓でしょ?
でも本当は私たちの目指す所。
音楽の先生から頂いたメールには「琵琶の発表会」というより「琵琶の研究会」だね・・のご意見。人数制限がない時なら音楽の先生に一杯声を掛けるね、と。
本当にありがとうございました。
その翌日、8月2日、まん延防止重点措置が発令。
神様が味方してくださったに違いない。
今日はキンキンに冷えたこのシャンパンを飲む ~♪♪♪
ホトトギスさん・・・ありがとう。
もう飲んでもいいでしょ?