散歩途中で見かけた牡丹の写真を挟みながら「山葡萄の2」の続きを書く。
「東京や京都、大阪ならいざ知らず、こんな所に果たして下駄を直してくれる店があるんだろうか?」
半信半疑ながら「材料の仕入れから販売まで一貫して・・・」という歌い文句に惹かれて恐る恐る電話してみた。
何十という店、問屋にアクセスしても体良く断られたり、やんわりと新しい山葡萄の下駄を勧められたりもした。気持ちは完全に底値安定(笑)テンション下がりっぱなし。
「新しい山葡萄のを買われた方が貼り替えるより安くあがるんとちやいますか?」と。「新しい山葡萄のは幾らしますか?」「五万も有ればお釣り来ます」と。「それって日本製ですか?」と言う私に「日本製って、あんた。このグローバルな時代に・・」と。グローバルかあ?時代に取り残されたお婆ちゃんに思われてしまった。ある意味、当たってはいるのだか。
中には「山葡萄?いつの時代の話?」と言わんばかりの応対もある。「二千円で真新しい下駄が買える時代に貼り替えて欲しい?」と言わんばかりの正直ムッとさせられる応対もあった。
電話をかけるたびに意気消沈する私であるからして、恐る恐るという心境にもなって行くというもの。「無理なんかなあ〜」と半ば諦めかかっていた。此処で駄目なら、暫くこの下駄はお蔵入りやなあ。
長い電話の呼び出し音のあと
「はい・・」
出られた方は相当年配のお婆ちゃんらしき。
「直ぐ出られませんで・・」
ハアハアと息を切らしながらドッコイショと坐られている気配。
「すみません。下駄を直して欲しいのですが、お願いできますか?」
という私に
「出来ますよ」
即答された。
「山葡萄の下駄なんですが。」
分かるかなあ、と恐縮しながらも尋ねる私に間髪いれず、
「いつ買われたものですか?」
と畳み掛けられた。おっ?出来るな、お主。
「25年位前でしょうか?」
答えながらこのお婆ちゃん、誰か話の分かる職人さんに代わってもらえないかなあ、とも不埒に考えてもみる。
しかし、次の返事には驚いた。
「25年前位なら、青森の材を使っていると思うの。先ずは修復できますよ。最近の物は体裁はいいけど海外の産だから痛んだ蔓を変えるのが中々難しいのよ。うちは国産しか使ってないので。まずは見てみないと。」
その方、
「山葡萄の下駄をはいたら、他の下駄は履けないよね?」と。
そうなんよ。履いている時の足の美しさや、脱いだ時の下駄の美しさは塗りの下駄に勝る物はない。でも履き心地は山葡萄の下駄に勝る物はないのだ。履いた人しか分からない。
仏様に逢えた気分。
一頻り山葡萄の話で2人で盛り上がりスッカリ気分はお友達。お婆ちゃんの病気や病院通いの話なども交えながら
「どの程度の傷み具合か見てみないと費用の見積もりは出来ないので一度送って」と。
山葡萄の台が傷みが激しくても代わりの蔓で修復も出来るから安心しなされ、とも。
「あったのね、こんな所が。やっぱ絶対いるのよ、凄い方々が。」
直ぐ送りますとも。見積もりなど取らなくていいので確実に直して貰えればそれでいい。話の応対からの感じでは、とても誠実で律儀な雰囲気が伝わってきたから。セッカチな私は直ぐ包装し送った次第。郵便局に行く私の足はスキップしていたに違いない。直るぞ、直に〜♪。やっと又履けるよ、これを。嬉しい〜♪
後日・・
山葡萄の台の痛みは殆んどないので台を変えれば綺麗になりますよ、と連絡を受ける。神様だね。台は桐にした、鼻緒は私が勝手に選んだと(笑)。彼処まで地味な鼻緒はないので、渋目の鼻緒に前壺は赤のものと。「赤かあ、・・」と一瞬思う。でも贅沢は言えぬ。
その私の一瞬の沈黙が分かったに違いない。
その方間髪いれず
「渋好みは分かっている。あなたのこんな鼻緒は地味過ぎてそうそうはない。まあ今回はその辺で手を打ってください。鼻緒は申し訳ないけど高いよ。小千谷縮だしね、裏は本天で7500円よ。」と電話口で笑っていなさる。構いませんとも。小千谷縮なら致し方ない。
小千谷縮で裏は実は本天という鼻緒で7500円は決して高くはないのだ。小千谷縮は知らない方は検索してくだされ。直ぐ分かる。
問題は「本天」。ホンテンと読む。本物の絹、しかもビロード。ビロードは漢字で「天鵞絨」と書く。絹の天鵞絨である。鼻緒の裏は常に皮膚に当たるので素材は大切。当たりは柔らかで化繊に比べ耐久性も悪くない。「本天」、時々使われるので着物検定を受けられる方は要チェック。
かくして、連休中に修復して送って下さるとのこと。皆さんに美しくなった姿お見せできる。
ちなみに時間を作って今度その工房を見学させて貰うつもり。
東南アジアや中国の材料を使っているとこんなご時世、材料が入らないということもある。このお家のように国産に拘り全ての作業を自社工房で賄っていると関係なく仕事をこなされている毎日であるとか。
ちなみにお婆ちゃんが直されるの?
と聞く私に、いやいや「息子!」
「昔は夫がやってたんだけど・・」
とシンミリ。
そして電話で色んな事を話しながら分かったことはその方は私と大差ない年齢のようでもある。
まあ、私も充分お婆であるのだが。
牡丹は艶やかで華やかではあるけれど牡丹ばかりを見ているとフッとツツジが新鮮に思えた。
綺麗に直って送られてくるのを待ちましょ!