和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

気持のよい一日

散歩していても相変わらず寒さは厳しいのだが、木々の新芽が芽吹き始めている。

木蓮の木も、



風にそよぐ柳にもよく見ればちらほらと・・・




空は例えどんよりと曇って、皮膚を刺す風の冷たさに首をすくめても
トビは翼を目いっぱい広げて空高く舞っている。



私だって胸を張ろう・・・
そして顎をひこう・・・
しっかり歩幅を取ろう・・・
一歩一歩大地を踏みしめよう・・・
まさしくそんな気になる。



さて・・先日の成人式でとてもうれしい母娘の着せ付けをさせていただいた。
今回はその話を書こう。

こんな仕事をしているとそれこそいろんな母娘と出会う。
いやいや祖母と娘という組み合わせもあった。
父と娘だってあれば、姉と妹という形もある。

両親が離婚しおばあちゃんが孫を育てているという家庭もあるのだ。
年金暮らしでは孫に新しい晴れ着の一枚も買ってあげられぬ・・
せめてこんな昔の着物を何とかそれらしく着せ付けてもらえないだろうか・・と。
孫娘はおばあちゃんに迷惑をかけたくないので洋服で出席するという・・
孫娘を惨めな気持ちにさせられない・・とおばあちゃん。
全然みじめじゃあないよ、洋服でもいいのよ、と。
そんなことはさせられないとおばあちゃんは涙ぐむ。
不思議なもので、話を聞いているだけで胸が熱くなる。
そういう時ほど何としても、どこのどんなおうちの子にも負けない美しい姿にしてあげたいと力が入ったものだ。

父と娘と言う方は母親が子供の小さい時に亡くなって
父親が娘を育てたはいいが成人式に何をどう揃えたらいいのかわからず相談にいらしたという親子だった。



今回は



こんな振袖と帯。
成人式を迎えられる娘さんのひいおばあちゃんが作られたもの。
このお嬢さんの叔母さんも、お母さんも、二人の従妹も全部で五人が何度も着て受け継がれていらしたものである。
ひいおばあちゃんはすでに亡くなっているのだが、おばあちゃんは折角作ってくれたものだから何とかひい孫にあたるこの娘さんに着せたいと。
随分昔のものだし五人も・・しかも何度も着られたきたものなので、着物もくたびれていて迷われたようだ。
今風のレンタルをしようか・・とも。
最期は娘さんの意思決定に任せた。
お嬢さんは「これを着る」と言われたようで思い切って和装組曲に持っていらした。

今風の着物や帯の間にはいるとどうなんでしょう・・と心配されるお母さん。
いやいや逆にとても素敵だと思いますよ、と答えた。
「誰にも負けないように素敵にしましょうよ。」と言う。

髪型や帯の結び、小物の取り合わせなど何度か事前に打ち合わせた。


襦袢には白い襟がかかっていたのだが、思い切って赤い刺繍襟で豪華に。
舞妓さんの襟のイメージで可愛く。伊達襟も二枚重ねてゴージャスに。
普通は重ね襟は3〜5ミリ程度出すのだが、今回はこの娘さんの背の大きさや雰囲気など考えて思い切って7ミリは出した。
しかも2枚なのでちょいと冒険か?
いやいや中々いい。(自画自賛はいつものこと・・)


髪も今風のもりもりヘアはやめて、スッキリ毛先を中に入れ込む古風な雰囲気。
ちょっというと後ろは夜会巻風、前は髷風で古典的な中にも今風に。
薄く、本当に薄く化粧を施し、紅だけさしているのもとても初々しく見ていて気持ちが良い。
ピアスをしていない今のお嬢さんらしからぬのもすこぶるいい。
(自分の耳にはピアスをしっかりしていてどの口が言う? 私のこの口・・笑)

帯はこんな感じ。


帯の前はこんな感じの帯揚げ、帯締め
絞りの帯揚げだからこんな楽しい帯揚げ遊び。


帯地が黒字に金銀と色目がなかったので少し華やかさとボリュームを。




おうちにはお婆ちゃんやおばさんたちが着姿を待っていらっしゃるとか。
「みんなでいらっしゃればよかったのに。」
という私に
「いやいやそんなことをしたら大変なことになります」と。(笑)


朝早く着られて一日着物で大変だったはず。
今頃はもう脱いで一息かな?と夜時計を見る。
丁度そのころ、お母さんからメールそして電話が入る。


     沢山の中でもあの子がとても光って凛と見えました。
     とても楽に気持ちよく過ごせたようです。
     今着物を脱いだところです。
     あの子の人生ただ一度の記念の今日という日を家族みんなで
     笑顔で過ごせたこと
     一日中笑顔に包まれたこと、感謝しかないです。
     先生のおかげです。本当にありがとうございました。




と。いやいやそれは大げさ。ひいおばあちゃん、おばあちゃん、お母さん、そして当日カメラマンとして動いてくださった叔母さんのおかげでしょう。
そして静かに見守っていてくれたお父さんの存在も大きいのではないでしょうか。
和装組曲で少しお貸ししたものをその次の日に返しに来てくださった。
洗濯すべきものは洗い、全てのものにアイロンをかけ皺一つなくきちんと美しくたたまれていた。
一つ一つのものを本当に感謝しながら丁寧に折りたたまれて袋に入れられたに違いない。
何度か催促しても返さない方もいらっしゃるような今の時代である。
「躾(しつけ)」と言う字は「身が美しい」と書くのであるが、このお母さんから娘へと確実に受け継がれていっているに違いない。

とても清々しい方々でした。
私もとてもうれしく記憶に残る人たちでした。

私の方こそありがとうございました〜♪
こんな素敵な人たちに関わることができてこちらこそ感謝です。