和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

髪は女の命?

先日知人と二人で食事に行った。



店はとても混み合っていた。いつもの事だ。そのお店はとにかくいつも混む。
気を使ってボックス席を勧めてくださる店員さんにカウンターでいいよ・・と言う。
まだまだ混むだろうし四名さまで来店する客のためにボックス席をできるだけ空けておきたいのが店側の本心であろう。
老女二人カウンターで注文品が出来てくるまで暫し待つ。

ほとんど一名様での来店であろうU字カウンター席に一人の老婦人を見る。
私たちよりかなり上に違いない。
化粧気はほとんどなく薄くリップの引いた顔・・・
丁寧に染められ綺麗にカットされた茶色の髪・・
襟もとに真っ白いしかも程よく糊のきいたブラウス・・・
ブラウスの襟もとには使い込んではいるが丁寧に磨きこまれたアンティークの黒い象嵌ブローチ・・・
上に着ている辛子色のセーターも新しくはないのだが実に手入れされている・・・
これが真新しいセーターならどこかへお使いに行かれた帰りかもしれないと思っただけ。
でも明らかに新品ではないのが分かる。
多分いつもこざっぱりと清潔で品よく過ごしていらっしゃる人に違いない。


期せずして私の連れの知人も見ていた。

食事がすんで二人歩きながら家に向かう。
知人がポツリ。
「あなたね・・・いい加減髪を綺麗に染めておいでよ」
と。

その知人は髪は染めずに真っ白いままである。
お正月のためにも一日でも染めるのを遅らせたかった私。
一月には新年会だけで三回はある。
余りに早く染めると新年会用にもう一度染め直さないといけない。
私の髪は白髪が根元に二センチは出てきている。

「うん、そうする。流石に恥ずかしかった。」
と、私も素直に認める。
顔を綺麗にするのは案外皆さんされている。
着るものに神経を使うのも今では当たり前である。
でも白髪を綺麗に手入れされている方は沢山いるようで案外いない。
染めたら染めたでいつも根元の白い髪を染め続けないといけない。
また白髪のままで過ごすにはその白髪も綺麗に手入れしないといけない。
日本人の白髪は真っ白ではない、すこし黄味が入っている。
男性ならそれほど目立たなくても、お化粧する女性は顔の白さがあるだけに黄色っぽい白髪は濁って薄汚れた白髪の印象となる。
その点外国の女性は白髪が青みを帯びているので実に美しくまさしく銀髪に輝いて見える。
だから美しい白髪(それが黒い髪が入っていようが)それを美しく維持するには、時々はそれなりにその白髪を手入れしてあげないといけないのだ。
美しい白髪を保つには美しい黒髪を保つと同様に気を使ってあげる必要があるのだ。


私はその時にジーパンに白いカッターブラウス、毛玉の所々着いた赤いセーターを着ていた。
セーターも決して古くはないのだが、如何せん擦れる脇と腕の場所にはすぐ毛玉ができる。
この毛玉も少しカットしてあげないといけないなあ・・と反省。
白いブラウスも何を隠そう、胸元に「和装組曲」のロゴ入りの制服。

髪は女の命とまでは思わないが、髪を綺麗に手入れすることはとても大切。
白髪であろうが・・・染めていようが…
いつも身ぎれいにこざっぱりしているよう努力することってとても大切。
老人は特に気を付けないと薄汚れた汚い雰囲気となる。
そんな反省をしながら帰宅した。
仕事や年末のあわただしさ中、ついつい「仕方ない」と自分に言い訳して暮らしている自分にすこぶる反省。
こんなあわただしい時だからこそきちんとしていなければ…と。

髪の話ついでに・・・・本を紹介。


うき世櫛

うき世櫛



15歳で両親を失った結は、長屋で首を吊ろうとする。
その時に元芸者の女髪結いお夕に間一髪で助けられる。
不器用な結ではあったが、ほかに生きていく術もなく、髪結いの仕事を見習いながらお夕の許で修業し始める。
お夕は美しい売れっ子芸者だったが、顔にむごい刀傷を持つ。捨てた男に切られたのだといううわさも聞く。折りしも江戸は贅沢の取り締まりが厳しく女髪結いも取り締まりが強化される中、お夕と結は訳あり女たちをすこしでも美しくするために奔走する。

「いつの世も髪は女の命」・・・・本の帯にはこう書かれていた。
髪型一つでこうも女の気持ちが変わっていくのか…
髪や地肌に触れながら女の心の変化を手に取るように分かっていく・・・女髪結い師と結。
読んでいて中々面白かった。特に私の場合は髪型は着物にも深く影響するので私自身興味のある内容でもあった。時々出てくる専門用語も着物検定で押えないといけないもので興味深い。
ちなみにこの書物の中で髪の五分割という言葉が良く出てくる。
でその説明。


Aは前髪  Bは鬢(びん)、当然左右に二か所ある。
Cは江戸ではたぼ、京都ではつと、という。漢字は髪の下の友という部分が包むという字である。
Dは髷(まげ) 
Eは平元結(ひらもとゆい)、Fは元結(もとゆい)
元結は現代ではお相撲さんの髷を結う時に使うのではなかろうか。
水引にも似た紙製の強度のある紐。

この程度の言葉が出てくる。
そうそう、「手絡」(てがら)という言葉も出てくる。図でいうEの部分につける飾りのような布である。
時代劇などで女性の後姿で髪に水色とかの鹿の子の絞りの布が結んであるのに気が付いたことない?
子供は赤、若い女性はピンク、ちょいと年齢が行くと水色や紫色・・年寄りはくすんだ抹茶色や小豆色など。
次から気を付けて見て。そんな風に思って時代劇を見るのも楽しいよ。
着物検定一級を受ける場合は更に「笄」(こうがい)という名前もチェック必要かな。
「笄」もちらりと登場する。
絵の説明もあればなお分かりいいかもしれない。
大奥などの身分の高い女性が鼈甲の真一文字の簪を髷の所に一本ポーンとさしているあれ・・の事。

内容に関して欲を言えばもう少し一ひねり・・二ひねり・・あってもいいかな・・とも思う。
町奉行所あたりまでは登場するが、できれば贅沢禁止令に少し踏み込んでいくスケールの深さがあってもいいかな・・とも。書けない人は勝手に好きな事を言う。(笑)
こじんまりとしていて少し単純すぎて物足りない感もあるかも。特に髪結いお夕の顔の傷を好きな男に見せるくらいなら・・と自分の姿を見せないで男の前から黙って消えてしまったこの人が心底好きだった男が最後にちらりと登場するのだが、その男、すこーし軽い。もう少し深みのあるそれに見合う男であってほしい・・売れっ子芸者をそこまで惚れこませた男なのだから読むこちらもちょっと期待するではないか。「どんないい男?」って。肩透かしの感有り。(笑)まあお婆の期待に応える必要もないのだが。
たださらりと読むにはいいし、読後感も良い。


ついでにもう一冊紹介。

梅もどき

梅もどき



関が原で父は西軍につきついには命を落とす。
その娘、梅に敵将である家康の側女の話が持ち上がる。
しかし梅は家康の寵臣本多弥八郎の姿が忘れられぬ。
女が政治の道具だと思われていた時代(男だってなんの違いがあろう、皆お家のために生きた時代でもあるのだ。)・・
自分の運命から逃げず自分のやり方で戦い抜いた女性の生涯。主人公梅という女性も悪くないが本多弥八郎も中々良い。
物語の構成手法に少し工夫が凝らされ読む人の好みによって良しあしが分かれるだろう。

大絶賛とまではいかないがこの人の本はいつもはずれがない気がして私は好きだな。
どれを読んでも義理と人情と潔さと正義感が程よくバランスとれていて、しかも読後感が悪くない。私にはこれ、大切。
お正月に暇な女性、清涼感を求めたい人は一読を。
同じような雰囲気の小説として山本一力の「梅咲きぬ」がある。
こちらは商家の親子の物語。以前どこかで書いた気がする。
若干私の中では「梅咲きぬ」が軍配。




今の私は夜、暇暇に能面に紙やすりを当てている。


ガタガタの皮膚をツルッ〜ツルッ〜にするべく奮闘。

中々妖艶な雰囲気になってきている。
下の黒い敷物はゴミ袋。(笑)
削った木くずが中々凄いのでゴミ袋の中でやすりを当てている。







ワインを飲みながら楽しみながら磨いている最近の夜のひと時である。
これからこの能面に段々彩色をしていくのが楽しみ。
多分髪を書き入れるとパラリと変わるはず。
こんなにシャープな面に見えるのだが、髪を書き入れるとたっぷりとした下膨れの小面になるに違いない。
ちなみに髪も若い人から年寄りの面に移行する時は髪の乱れ様が実に合理的にできていることを知る。
一重にこの本による。


能面の世界 (コロナ・ブックス)

能面の世界 (コロナ・ブックス)


この書がとても面白かった。
写真も美しい。
古面の写真が真に迫る。

特に今回女面の見分け方の項より面白いページを紹介。
髪の描き方から見た毛描の図解。
幾つか書いてみると・・


左から右へと年齢が高くなっていく。
勿論私がブログのお絵かき帳で書いたものなので線もがたがたではある。
実際は黒々と太い真っ直ぐな線がスッキリと描かれている。

一番左の「小面」は一番若くて髪もしっかりとしている。
二番目は「孫次郎」で分け目から二本、途中から三本となる。
三番目は「万媚」で三本の毛が途中から中に入り髪が乱れてくる。
四番目は「若女」で二本、三本、三本と交差している。
一番右は「曲見」で分け目からすでに髪は生えていなくて離れた位置から生えている。

絵のまずさはご勘弁していただくことにして、能面でも年齢によって髪の描き方がドンドン変化しているのが分かり興味深い。
髪の乱れである程度どんな面なのかと想像できるのも何とも愉快ではないかしら。

ただ今回お絵かき帳で書いてみて思った事。
いやぁ〜・・・・真っ直ぐに線を書くことの難しさ。
実際墨で髪を面に書く時にうまくいくか物凄く心配。
お絵かき帳ならすぐ消すことができるが面はそうもいかぬ。
面を紙やすりで磨きながら心配は尽きない・・・

こんな心配事をしている私って、実に目出度い・・・・♪
目出度いと言えば、あと一週間で新しい年。
多分これが雲龍柳の今年最後のエントリーになると思う。

        〜少しばかり早いけど、どうぞ皆さんよいお年を〜