和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

昔・・・昔・・・その昔〜


いえいえ・・・そんなに昔の話でございませぬ。
暗い森深くに一軒の家がござった。
それは古い小さな小さな家。

ある夜、道に迷った旅の僧が一人・・・
その家のかすかな明かりを頼りにやってきた。
「トントン」僧は戸を叩く。
「どなたかの?」しゃわがれた老婆の声。
「道に迷った旅の僧にございます。一晩の宿をお願いしたいのですが。」と僧は遠慮がちに言う。


戸を開けたのは一人の白髪の老婆。
「どうぞ中に…」と僧を招き入れる。

「囲炉裏の鍋の中に雑炊が少しござりまする。あとは好きに過ごしてくだされ。」
老婆はそういって蝋燭の明かりのついている隣の部屋に消えていく。
「決して中を見ないでくだされ〜」と言い残して。


蝋燭の明かりは障子越しに老婆の姿を映し出す。
やがて隣の部屋からは・・・琵琶の嫋嫋たる音色。
ベベン・・・ベベン・ベン・・・♪
琵琶の音に乗ってか乗らずか不気味な唸り声まで聞こえてくる。
障子に映る老婆の影はいつしか髪を振り乱していく。
やがてその琵琶の音も止んだ。

塩気のない僅かな雑炊をかき込んで僧は寝ようと布団に入る。
ひょっとしたら、大変な場所に入り込んだやも知れぬ・・・
明日は早々に退散しよう・・・
僧は布団の中で体を縮ませる。
万が一にと手には数珠をしっかり握りしめて。


隣の部屋からは今度は何か刃物を研ぐ音。
「シャア〜・・・・シャア〜・・・・」
決して見るな、と言われてはいたのだが…
不吉な予感。胸が騒ぐ。
僧は間の障子をほんの少し開けてそっと中を見る。

「今宵、満願成就。」
白髪を振り乱して一心不乱に呟きながら俯く老婆の横顔。
髪の間から見える口元にうっすら笑みを浮かべているようだ。
手には切れ味鮮やかな刃物が光る、きらり〜ん〜☆
蝋燭に照らされた老婆の頬はかすかに高揚し眼は爛々と光っている。

ふと、自分を見ている僧に気づく。
老婆はゆっくりと静かに僧の方を見る。
「見・・た・・な〜・・!!!」

     ・・・・・手に刃物を持って襲い掛かってくる・・・・・・・
    ・・・・・・・これが能「黒塚」なら・・・・・・・



僧は這う這うの体で逃げる。転がるように逃げる。ひたすら逃げる。
森はどこまでも深く暗い。
木の根で躓き転ぶ。茨の枝に顔をひっかけて悲鳴をあげる。
着物の袖に木の枝が引っかかったりもする。
「助けてくれ〜」
老婆に後ろからつかまれた気がして遮二無二両腕を振り回して走る。
「誰か〜」

叫び声はむなしく森に響く。
フクロウが啼く、蝙蝠も飛ぶ。
僧は逃げる。兎に角逃げる。
一目散に。どこまでも逃げる。


一方老婆の家では・・・・
「あれっ〜??
旅のお坊様はどうなさった?出て行ったのかえ?
大切な数珠を残して。まぁ〜おかしなお坊様だ。」

老婆の手には彫刻刀。
キラリと光らせて振り返る。




  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪・・・・・・

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
えっ?・・・・分かった?
五月から私、雲龍柳は「能面作り」。



友達に言うと一様に言われた。
「あなたらしい〜」
琵琶の曲を流しながら、夜な夜な能面を作る姿は想像しただけでものすごく怖い、と。
沢山能面を作っても私には絶対くれなくていいから、と。

はいはい・・誰にもさし上げませぬ。

いつまで続くかは不明。
まずは一つ完成させてみる。
怖がりの私は当分小面だな・・きっと。


さてさて、どうなりますか〜(^^♪