その電話があったのは2週間ちょいと前だろうか・・・
「自分でも全く着物を着ることができないのですが、娘に着せてあげることは可能ですか?」と。
「勿論大丈夫ですよ。」
本当はまず自分が着れてからの方が良いに決まっている。
紐の締め具合や動きに拠るゆとりなど無意識のうちに分るので。
しかし、着せてあげたい日まで時間がない・・と。
何をそんなに慌てて・・と内心思うが余りその方のプライベートの事なので私は突っ込んだ事を聞かなかった。と、言うのはこの教室を始めた時はお客さまと一緒になって泣いたり笑ったりしたくて微に入り細に入り聞いていたのだが、傾向としては余り立ち入ってほしくないというお客様が案外多いので私も本人が自分から話さない事は余り踏みこんで事情を聞かないようになってきてきた。
電話で話す感じでは帯締めも帯揚げも区別がつかぬのは勿論の事、名古屋帯も袋帯も知らぬようであった。本当の初心者であることが感じられた。
分らないようであれば「これかな?」と思う物はドンドン持ってきて下さい、とも言った。もし足りない物があれば練習用の物をお貸ししますので・・・とも。
で・・・当日・・
一式持っていらした。
何と、振袖と袋帯であった。
「えっ?結婚式?成人式?」と聞く私。
「結婚式」と。
「何時?」
聞くと一月半くらいしかない。
その時点でも私はお嬢さんが友人か誰かの結婚式に参加されるのだと信じて疑わなかった。
振袖の帯結びは中々素人さんには骨の折れる仕事なのだ。
名古屋帯や袋帯で二重太鼓ならなんとでもなるし安定感もある。
まずは失敗しないのだが・・・
しかもフルタイムの仕事をしていらっしゃるので夜しか練習に来られない。
夜は一生懸命しても2時間が良いとこである。
土日は駄目ですかと聞くと無理だとのこと。
1週間に夜1回ぐらいしか・・と仰る。
11月初めの結婚式なので10月で仕上げるしかない。
本人とても感が良くテキパキする人なら何とかなるかもしれないが・・・
ちょっと雰囲気は御大家の優雅な奥様風。品も良いし慌てる様子もない。
「死ぬ気でやって下さい。」
ドスを聞かせて脅すお婆〜♪(笑)
「はい!!頑張ります〜」
と。
しかしトルソーもマネキンもないなかどう頑張ると言うのか・・・とっても不安。
これはちょっと手ごわいぞ・・・私に緊張が走る。
しかし、引き受けた以上何とかしないと。
しかし、最悪当日どうしても駄目なようなら前日でも前々日でもそのお嬢さんと共に教室にいらして実戦さながら練習してもらい手直しすることもできるし・・・、ご本人もちょっとは焦るだろうし、と何処かでたかをくくってもいた。
なんと・・・・なんと・・・・
物凄く真剣、まじめ、練習しているのがよくわかる。
タックの取り方、ヒダの取り方、結び方、幅の取り方、物凄く丁寧なだけでなく私の言ったとおりに実に素直にきちっと練習して来ているのが手に取るように分るのだ。
2回で着物も帯もそこそこ行った。
嬉しい誤算。驚きである。
家で毎日のようにやらないと此処まではいかぬ。
何か必死にならざるを得ない特別な事情があるに違いない。
思い切って踏みこんで聞いてみた。
おおよその筋は・・・・
お嬢さんは今1人フランスにいる。
で、フランスの男性と11月フランスで式をあげる。
ところが突然、お嬢さんが結婚式には振袖を着たいと言いだす。
成人式の振袖は有るにはあるのだが、誰に着せてもらう?
お母さん、着せて・・・となったようである。
海外なら誰かに頼むわけにもいかずお母さん一大決心して和装組曲に電話したという次第。
しかし、トルソーもマネキンもないのにどうして練習したの、と聞く私にお布団を丸めて胴体にした、と。あるときは自分の体も使ったと。
そのお母さんの着せ付けを見てやって下さい。
素晴らしい。
この写真の日が練習に来て3回目。
しかも手直しなしで全部自分でしなさった。
ちょっと羽がこころなし大きいのだが、それはこれから少しずつ手直しをする。
時間は丁寧にしておおよそ30分かからぬ位。
母の一念・・・・凄いとしか言いようがない。
何としても異国の地で娘を誰よりも綺麗にしてあげたい・・・
体格の良い外国人の中でも一歩も引けを取らぬ美しい注目される花嫁にしてあげたい・・・
その為に着物は美容院で・・・と信じていた自分を根底から組直し、母としてできる精一杯の愛情で不可能と見えることに挑戦した方である。
朝から晩まで仕事・・・その合間を縫って夜、和装組曲に通われた。しかも此処に来ない日には家で黙々と練習されていたのだ。
次回は4回目の練習となるが多分5回で美しい振袖姿に着せ付けできるようになるはず。
形はできたので後は時間である。
教室では30分かかる。
しかし、当日の緊張やアクシデントを考えたらできれば15〜20分で仕上げてほしい。
そして最後は人の体でできるようにしたい。
しかし・・・何だか私まで感動してしまった。
母の愛って本当に凄い。
娘さんもお母さんならなし遂げてくれると信じているのであろう。
絶対成功させてあげたい。
あと2回、私も必死にできるだけの事をして見守ってあげたい。
ちなみに此の夜、一緒に練習されていたお二人も自分で着物を着て子供さんの結納や、結婚式、卒業式に臨まれる為に日々努力していなさる方々である。
「ひゃあ〜凄く上手!!」
2人の歓声がこだました夜であった。
このお二人はお二人で素晴らしく頑張っていらっしゃる方がたである。
お子さんや甥御さんの為に結婚式に誰よりも美しく黒留袖を着るために。
それは又後日〜機会を作って書こうと思っている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪・・・・・・
さてさて・・・久しぶりに今日の1枚
先日偶然見つけた。
なんとも小さいので何の鳥かも分らない。
その時にふっと飛んできてくれた。
とってもいい子〜・・・・(笑)
でもピンボケ。。
最大倍率・・・シャッターを押す時に画面が揺れていた。(笑)
カワセミ・・・
笑いカワセミに話すなよ・・
ケ・ケラ・・ケラケラ・・ケ・ケラ・ケラ・・♪・・
と、うるさいぞ〜♪♪