和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

重陽の節句 と被綿(きせわた)

易では九が陽数・・
陽の九が重なるので九月九日は重陽の日。

古くは三月三日は農耕の初めで九月九日は農耕の終わりとも言われたらしい。
中国から伝えられた菊は長寿の象徴。
以前何度かブログで触れたように菊水伝説や菊慈童伝説などもある。
菊には抗菌作用もあるらしく、菊鱠(なます)、菊酒と料理にも使われたり食す前に料理や酒に浮かべたりもする。元々は薬用として日本に入ってきた花でもある。
今と違い昔はそんなに花に消毒しなかったので家の庭から採ってきたきた菊を酢でしめて鱠に入れたりした記憶もある。
今は食用として売られている物でないと食事には危険。

秋の花としても愛でられ日本の文化に深く根ざしているようである。
かつて私は手紙で九月のことを「菊月」と書いたりもした。
四月の桜の散った時は「花残月」と。美しい言葉なので好んで用いていた。
今ではメールには月日など書く必要もない。

着物の世界でも物凄い数の菊の文様がある。



    季節を問わず「菊文」
    小さく密に描いて「むじな菊」
    乱れ咲いて卍崩しのようにした「乱菊
    青海波に菊を見立てて「菊青海波」
    丸くデフォルメして「光琳菊」
    ひし形に配した「菊菱」
    流水に菊を浮かべた「菊水」
    菊を種々組み合わせた「菊尽くし」
    菊の花と葉を丸く配した「菊の丸」
    菊の一枝を表現した「菊枝」
    鎌倉時代からの代表的な「まがきに菊」
    唐草とともに「菊唐草」
    乱菊をさらに細かくした「糸菊」
    
大体頭の中で・・・こんな模様とイメージが浮かんで来ればいいのだけれど、怪しいものは一応押さえておいた方がよい。


菊が日本に入ってきたのは奈良時代と言われているが、鎌倉、室町には既に意匠化され、江戸時代には多くの品種が栽培され菊の種類は競うくらいに多くなったと言われている。上にあげた「光琳菊」は他の菊の模様と違い上から見たものだけでなく、横から、裏からと花の全ての方向を楽しんで種類分けで着るくらいに多い。品種改良される前は「一重菊」が多かったようであるが、江戸時代品種改良されてからは「八重菊」「厚物菊」「管物菊」「野菊」など様々に意匠化。
上に書いた「まがきに菊」は陶淵明の詩「菊を采る東籬の下・・・」から、又白楽天の「重陽は己に過ぎたりといえども籬(まがき)の菊は残花あり・・」からとか。竹などで粗粗と組まれた垣根に菊を配したもの。


家紋としても色々ある。藤原氏の時代から家紋として用いられてきたのだが、後鳥羽上皇が愛用されて以来皇室の正式紋となる。戦国時代足利尊氏豊臣秀吉などが下賜されて以来武士にとって菊の紋は大変な名誉となった。楠木正成天皇家の紋章をそのまま使うのは余りに恐れ多いと半分水に隠し「菊水」にしたとも伝えられる。また徳川家康が下賜を拒みどこまでも葵の紋を愛用したことから天皇家が菊紋を下賜することは以来なくなった。六弁から三十六弁まで花弁の数も色々。「十六弁八重菊」は皇室の正式紋章。家紋になるのは菊の花だけではない。菊の葉を使ったものとしては葉菊菱。木戸孝允の家紋。

この辺りまでの事は今まで何度かにわたりブログで書いてきたと思う。
で、襲(かさね)の色目もついでなので触れておこう。「菊襲」(きくがさね)も種類が多いのだ。

主だった菊に関しての「襲の色目」だけでもちょっと挙げておく。

    「白菊」  「移菊」  「紅菊」  「蘇芳菊」  「莟菊」(つぼみぎく)
    「残菊」  「葉菊」  「九月菊」 「菊重」   「花菊」

一つ一つ表が何色、裏が何色と覚えていくのは大変。主だったものを言うと「白菊」と「九月菊」。「白菊」は表は白、裏は萌黄。白い菊と葉の色を表していて、和歌の世界に数多く登場する。「九月菊」、これは重陽節句を意識したものらしく表は白、裏は黄。「残菊」はこの逆で表が黄、裏は白。冬近く咲き残った黄色と白い菊の花を連想したもののようだ。

襲の色目だけでも物凄く美しい色を連想させてくれる。試験を受けられる方はこの辺りまではおおよそついてこられるはず。復習と思ってたい。
一般にこれを読まれる方は着物の表と八掛の色の合わせ方と思われて読むのも一興かと。
例えば白い着物に八掛けとして萌黄色を使うとそで口は「白菊襲」(しらぎくがさね)の色合わせとなるのだ。
其の同じ白い着物に八掛けを黄にすれば「九月菊」となり黄の菊をお酒に浮かべて飲んだ昔の重陽節句がしのばれる。
又同じ白い着物でも八掛けを淡紫(うすむらさき)にしたら、白菊が霜に遭って変色していく「菊重」(きくがさね)となる。
そんなことを楽しみながら呉服屋さんで着物や八掛けを選ぶのは呉服屋さん任せよりうんと面白みがあると言うもの。
白い着物にはピンクやオレンジ色の八掛けとは限らないのだ。
ちなみに白い着物に白い八掛けを付けると冬の襲の色目となる。「氷襲」(こおりがさね)。私の好きな襲の色目である。
勿論白に白は変化がないので光沢や織り方で昔は変化を付けて冷たい氷をイメージしたのである。
「氷襲」だからと言って冬だけしか着ないかと言うとそうでもない。夏、暑さを「氷」というイメージで着る人も見る人も涼しく過ごそうとした工夫もあったようである。
余談がドンドン・・・それて行きそう・・・元に戻そう。

さてさて・・・
そこで今日は一つ新しい言葉を。

            「被綿」

「被綿」(きせわた)と読む。
書物によれば「被せ綿」と書いてある本もあれば「着せ綿」と書いてある本もある。


古より重陽節句が九月九日に行われることは既に書いたのだが、実際九月九日に菊の花に霜が降りて花の色や香りが逃げてしまわないように前日に真綿(蚕の繭を広げて作ったもので絹である)を広げて菊の花に掛けてそっと平たく被せて覆ったものである。分りやすいことを言うと、菊の花が傷んだり散ったり開きすぎないように花屋さんで一本一本薄い和紙でそっと丁寧にくるんであるのを見たことがないだろうか?
そのうすーい和紙を和紙ではなくて真綿でくるんだと思ってもらうと想像しやすいかも。花屋さんの和紙は上でねじってあるが、被綿はふんわりそっと掛けただけのようである。
最初は霜よけや匂いや色を損なわないようにするのが目的だったのが、やがてこの菊の花を覆って被せた綿で顔をぬぐい身体にあてるようになり、老いが防げるというので続けられた平安の雅な雰囲気のある習わしである。紫式部だか清少納言だかが道長か誰かの奥方からこの被綿を頂いてとても恐縮していたのを何かで読んだ気がする。定かではない。なにせ五十年近く前の頃の話。私の知識は本当にあやふやでいけない。あんなにはっきり覚えていたはずの知識が全て朧になっていっている。紫式部中宮彰子との関係や清少納言と皇后定子との関係や道長とのつながりなど表に掛けるほど入れ込んでいた得意分野だったのだが。。。皆おぼろ・・・そのくせどうでもいいようなことは物凄く鮮明に、いやいや勝手に頭の中で脚色され盛りに盛られて何処までが本当の事なのか解らないくらいに盛りあがっているのだ。噂に尾ひれが付く・・・とよく言われるのだが、私の場合、記憶という尾ひれに年数と共に勝手にお頭(かしら)が付いていっているような感覚にとらわれることすらある。困ったものだ。(笑)


「あの方がこういった」とか「この方がどういった」とか言わなくてよいように、
「え?」「む?」と思ったことは各自自分で調べる癖を付けておくべし。自分で確認する…とっても大切。そして一番確実!!そして何より自分で調べたことは頭に残りやすい。
どんな時も自己弁護と自己擁護で武装するお婆である。これ和装組曲で生き残るための鉄則。(笑)

この被綿も色々あって、そのまま用いたように書かれているものもあれば、菊の色と同じ色に染められたものもあるとか。
説によれば違う色に染められたものを何色に染められた綿は何色の菊に被せるとルールがあったと書かれている書物も有る。
ややこしいのでこれ以上は触れない事にした。一つの説でも覚えられないのに、様々な説まで網羅出来っこない私であるからして・・・。


重陽節句で宮中では

    菊酒 菊枕 菊なます、被綿、菊水 

と秋の霊気をを含む菊の効力に長寿を祈ったと言う日本人独自の美意識としきたりではなかろうか・・・・
そうそう・・・あと一つ・・「四君子」(しくんし)。
「梅」「菊」「蘭」「竹」、絵画でも工芸でもある。生け花でも使う。着物の柄にも勿論ある。
その高潔な姿を君子にたとえているのだが、此処で言う「蘭」は洋蘭ではなく「春蘭」のこと。

重陽節句・・菊・・それにまつわる着物の知識は一応本日はこれにて。
  
       ・・・・・・・ゴォォォ・ォ・ォー〜ーン・ン〜・ン・・・・・・♪・・・・
                (最後は銅鑼の音のつもり)




   

        灯のもとに瓶(かめ)の小菊はかがよへり
                    おのれをまげず我らあるべし

                          窪田章一郎





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先日ちょっと夕方出かけた。
場所は東山・・・


昔ながらの町屋が並ぶ。
ここは着物姿がしっくり似合う。


格子の雰囲気のある戸・・・
あれっ?
なんと中には・・・

ずらりと車、車、車・・・・
駐車場だった。
景観を損なわず素敵〜☆