和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

捨て身の女たち〜♪

私の事ではない・・(笑)

藤沢周平の「隠し剣孤影抄」の中の話・・


何日か前、仕事場の一階の隅っこに小さな書架を作った。
着物に関係する本だけをすこ〜し。本当にすこ〜し。
組み立てなのでまだ接着剤が渇いていないかと沢山は入れられない。
で、自分の書棚にある本を整理していた時のこと。


古い本が出てきた。
自分で買ったものではない。
友人から借りたものである。
何冊も借りて皆返したと思っていたらこんなところに一冊残っていた。
返さねば…・・・友人に慌ててメールをいれておく・・ごめん・・・と。

で、今日はその本の話。


     

隠し剣孤影抄: 1

隠し剣孤影抄: 1





全八話・・
どの話も面白いのだが、その中の一つ「女人剣さざ波」を。


姉妹がいた。姉は千鶴。妹は邦江。
姉の千鶴は城下で噂の絶世の美女。嫁いで妻にした男はそねまれねたまれたほど評判の女性。浅見はちらっと見た千鶴の美しさ、なまめかしさが忘れられない。

ある時主人公浅見はその妹と縁談の話が持ち上がる。一も二もなく受けるのだが、浅見の母は「女は見た目より心根が大切」と自分がまず人となりを見てきましようと会ってくる。申し分なし、剣術もできる・・・と言う母のお墨付きで浅見の妻となる。

ところが・・・この妹、可哀想に邦江は器量が実に悪かった。姉の美貌は妹も同じ器量に違いないと思う浅見の完全なる早とちりであった。
家にいれば常に苛々し、妻の顔を見れば更に邪険にしていた。邦江は邦江で自分の容姿の負い目もあるので一生懸命夫に使えようとするのだが、すればするほど疎まれいつしか距離を縮められぬ、かみ合わぬ夫婦として生きていた。

そんな時浅見は上役から重大な任務を受ける。任務を理由に芸妓とねんごろになったり、料亭で飲みあかし家に帰らぬ放蕩の日々を送る。だが、いつしかその任務の為、命を狙われ自分の頼みにしていた芸妓まで無残に殺されてしまう。ついに城下で向うところ敵なしの剣士・遠山と果たし合いまですることになるのだ。誰も関わりになりたくはない・・誰も助けてはくれぬ…上司でさえ逃げをうつ・・・孤立無援の自分は間違いなく死ぬだろう・・その時彼は家に帰り妻に言う。「もう家には生きて帰ってはこれぬ、覚悟しておけ。」と。そしてこれまでの事を洗いざらい全て妻に話す。熱い茶を入れて黙って聞いてくれる妻の温かさに、この時初めて気づく。今まで自分は妻の何を見ていたのだろう。

「逃げても追手がかかる。立ちあうしかない。」
助からないであろう…ただ一太刀だけでも相手に切りつけたい・・と。それが武士の意地と青い顔で話す夫。
夫が寝てから妻は行動を起こす。

立ちあう相手に会いに行く。
夫のあの腕では一太刀さえ相手に切りつけることもできないだろう・・
遠山はそんな凄腕なのだ。武芸に秀でる妻は手に取るように分かるのだ。

そして遠山に言う。夫と立ちあう前に自分と立ちあってくれと。
勿論遠山は女子供の出る幕ではないと一言の下、却下する。
ところが・・・その邦江は剣の使い手で嘗てはその道で名の知れた秘剣「さざなみ剣」の奥義を学んだ女であった。

その名を聞いて「よかろう」と相手も邦江の秘剣を見たい好奇心もあり浅見との立ちあいの前刻、朝霧の中で立ちあうのだ。全身傷だらけになりながらも邦江の望みは遠山の利き手だけ。何度も何度も執拗に右手首一点をめがけて攻撃するのだ。遠山もやがてそれを悟る。邦江が取ろうとしている策を。自分を殺すのではなく浅見との試合で少しでも夫が優位になるべく、その一念。せめて一太刀でも夫が遠山に刃を当てられるようにと。


邦江の置き手紙を見て駆け付ける浅見。
間にあってくれ・・・・・・と走りに走る。駆けるに駆ける。


遠山の油断と甘い見通しでかろうじて邦江は遠山を倒すのだ。
しかし、その時は邦江は大きな松に寄りかかって虫の息。
「ひどい傷だ」と驚く浅見。

慎重に自分の背に負い「死ぬな」と言いつつ歩く。
邦江が浅見の背中でつぶやく。
「家についたら去り状を頂きます」と。

長い間この一言を言いたくて言えなかった妻の心情が胸に迫る。
「今までの事は許せ」と浅見。

邦江をおぶっている浅見の首筋におびただしい涙を感じながら家に向かう浅見たちだった。


邦江は助かったのか・・・助からなかったのか・・・。
それよりも、最後に心が通うことの何と言う気持ちよさ。




そしてもう一つをあげるなら・・・「臆病剣松風」・・これも面白い。
満江は剣の奥義を極めたという男が結婚すると意外と臆病だったことを知る。
何度も閂を確かめたり、地震になると裸足で逃げ惑ったり、本当に震えて臆病なのは嘘ではない。
いつしか満江は夫を軽く見下している毎日となる。

何とその夫にお殿さまの警護の大役がふりかかる・・・
夫は何度も何度も固辞するのだが、とうとう引き受けざるを得なくなるのだ。

守りの剣「松風」・・その奥義とは?妻が侮っていた夫の正体は?夫ははたして大役を務められるのか?

は・は・は・・・〜
これより先はどうぞご自身で読んでくだされ〜♪(笑)



物語の随所に見られる鳥の名前も花の名前も楽しい。
自分が今まで鳥や花ををよく見ていなかった時は飛ばして読んでいたのだろうか・・
花の名前で咲く時期やその時の空気の冷たさまで伝わってきて若い時とはちょっと一味違う読み方もできるようになってきた。

昨日、白ワインを飲みながらもう一度読み返していた。
凶々しく研ぎ澄まされた剣の道を極めながら、剣の強さとは裏腹に弱い人の性を何処かしこに覗かせながら次第に鬼と化していく男たち、その陰で捨て身の覚悟で夫やいいなずけ、息子を助けるべく奮闘する女たち・・読んでいても殺伐とした寂寥感は案外ない。むしろ男と女の悲しみや、ボタンを掛け違えたために最後まで捻じれたままの様相がいじらしい。人と人の関係は案外こんなものかもしれない。当時の時代を経糸に、此方彼方に覗く人の優しさや思いやりが緯糸(ぬきいと)。その緯糸に人の弱さ、裏切り、嫉妬、欲望が時々節のように絡んでくる。時代と言う闇に翻弄されながらそのなかで生きて行くことの意味を必死に手探りしていっているような・・・こうあるべきとか、これが正しいとか、作者の意図は・・・・一切ない。どこにもチラリとも見せてはいない。そのくせ作者の人間愛が根底に静かに大きく横たわっているのが嬉しい。

藤沢周平・・・いいですねぇ〜・・・この人はやはりいい。


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写真は上から

   ・センダイハギ
   ・テッセン
   ・夕焼けの中のカルガモ
   ・楓



最後におまけ・・・
オナガとツバメの赤ちゃん・・・
オナガは何とか自力で飛べた。ツバメは巣から出たはいいが巣に帰れない・・・
お母さんが餌を持ってきては訓練中の一こま。納屋の中なので驚かせないように納屋のガラス越しで写したもの。
こんな真っ白い羽毛に包まれた幼鳥、見たことある?
何だか可愛くてとってもいじらしい〜