和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

湯のし

物凄く地味な話・・・

でも着物を買うと必ず必要なこと。
又汚れたり染め変えしたりするときにも必ずこの工程は通る。
でも案外知っているようで皆さん知らない。
「湯のし」と「湯通し」・・・この二つを同じだと思っている人も多いのではなかろうか。

呉服屋さんの請求明細に「湯のし代」「湯通し代」なんて気をつけて見られたら書いてあると思う。
どうかすると物凄い額もある。どちらか一方の時もある。
さてさて・・・どう違うのか。。。

「湯のし」は生地を蒸気の中にくぐらせ生地の織り目を整える工程で、着物に仕立てる前の仕上げ工程。
「湯通し」は織物を温湯の中にくぐらせ生地についている糊を取り除き生地に光沢と柔らかさを与えるための工程。
「湯通し」の後「湯のし」を行う。
案外この二つの工程を一緒に考えている人たちが多い。
「湯のし」は全ての反物で必要な工程なのに対して「湯通し」は湯に通して糊を落とす必要な反物、光沢と柔らかさを与える必要のある反物に必要な工程である。結城紬とか大島とか。時には糊を落とし過ぎて柔らかくなりすぎる反物には若干の張りを与えることもこの工程で可能である。

そんなわけで今回は目茶目茶地味なこの話。
こんな話をブログにのせる人は多分私くらいかも・・・ある意味嬉しい〜♪

以前から「湯のし」の事や「湯通し」の現場を見学したかった。
各店のノウハウがあるので、案外見学は嫌がられる。
江戸小紋縮緬工場しかり、挙句は精錬工場しかり・・・
どんなところも一度や二度のお断り位では諦めない。
着物の衰退を憂える方々はたった一人の見学でも、必ず分かってくださる、と信じているので誠意をもって話せばきっと分かってくださるはずと信じている。

華やかな友禅だの廃れて行く貴重な織物だの、そういう物ばかりに人は関心が行くのだが、本当は表舞台に現れる事のない地道な仕事に黙々と励む方々もいる、またそういう方々がいて初めて成り立つ仕事もあるのだ。そういう知識を知りたいと思う人に自分たちの仕事を地道に普及していくことはとても大切なことだし、そういう場所にこそキチンと光を当てていくことが私のような着物に携わる者の使命だとさえ私は思っている。
どんなことも余りに大上段に構えると、何時か自分の首を絞めることになりかねないのでこの辺にしておこう。(笑)

今回はここ・・・

なんと天保11年創業というから物凄い老舗。
現在は7代目の方。

実は行くまで金沢の地元にここまでキチンとした湯のし工場があるとは知らなかった。
反物を端から端まで広げると13メートルはあるので工場の仕事場はその長さを必要とする。

今回「洗い張り」を見せていただきながらの「湯のし」の工程を見せていただいた。
着物をほどき端縫いをし、一反の反物にする。
勿論所有者の名前が分かるように渋紙をつけ識別できるようにしておく。

一通りの洗いが終わると水洗。
昔は井戸水を使っていたらしいが今では水道水。
ここで汚れと洗剤を綺麗に落とす。

そのあとは脱水。使われる脱水機はこれ。

中は金属製。
その後生地を整えながらローラーでしっかり脱水。

濡れた生地と生地を重ねて置くと色のにじみが起こるので直ぐ自然乾燥。
自然乾燥が絹には一番いいそうだ。絹のしなやかさが出るとか。
又昔は家庭で板に張り付けて乾燥させたがそれだと生地が張りすぎていけないと。

竹ひごを当てる手つきも手馴れたもの。
あっという間に天井へと。

で・・・自然乾燥させた後の工程が「湯のし」である。
蒸気が出る管。又水滴にならぬようガス管が通っていて火をつけ予防。
火があるので糸くずなどで火がつくこともあるので細心の注意。


御主人は反物によって蒸気も圧も火の加減も微妙に微調整を瞬時になさっているのが分かる。御主人の手がまさにこの店のノウハウ。

この機械、京都から取り寄せて特別に木枠で振り下ろすのと、巻きつけるのとどちらもできるような仕組み。
反物によって区別するとか。



機械で出来ないものもある。
機械にかからない幅が大きいもの・・・
手の感触を大事にして湯のしをしたいもの・・・
それは昔ながらのこんなもので・・・


この「湯のし」という工程は布目を正しく直角で交差させるためになくてはならない工程である。
ここで少しでも狂うと次にくる仕立てが正しくできない。
布目が狂っていると鋏が正しく入らないので。
昔は鋏を入れるのに緯糸緯糸の間に鋏をあてスッと生地を引いたものだ。
緯糸を一本も切らないで鋏を入れられるようになったら一人前だった。
私は小さい時母がそうやって反物に鋏を入れているのを何度も見ている。
母は反物に鋏を入れる時は慣れるまで息を留めて鋏を入れたとか。
今は緯糸を一本スッと貫く。真っ直ぐ鋏を入れる場所をそうして決めていくようだ。
しかし、それもこの「湯のし」の工程がしっかりと正しく出来ていての事。

しかもふっくらと絹の風合いも大切にしないといけない。
圧も蒸気ので具合も全て生地に寄り加減。

この御夫婦が何気なく実に簡単そうにやっていらっしゃるのを見るにつけ、長年の手の感覚が全てなのだと思う。
そして一緒に仕事をする「あ・うん」の呼吸が不可欠なのだろう。
仕事するお二人の様子を見ているだけで、お二人ともこの仕事が好きで誇りを持っていらっしゃることがよく分かる。
こういう人たちに支えられているのだと思うと、呉服業界案外捨てたもんやないなあ・・・とチョイほのぼの。

両端に付いている針のおびただしい数・・・・こんな針が

びっしりと両脇に付いている。
反物の両脇に付いている穴・・・この針の為なんだと改めて納得。
一つ狂うと生地そのものを駄目にしてしまいかねないのだと推測できる。
御夫婦の息もぴったりあってこその仕事なのだろう。

こういう仕事の合間にも有名な友禅作家さんからの「湯のし」依頼が入ってくる。
自分の丹精込めた仕事の仕上げはここにしか任せられない・・ということらしい。

工場の一角にはいわゆるガード加工の為の大きな機械装置も・・・

お二人で色々な仕事をこなしながら金沢で華やかな着物を縁の下で支える仕事にひたむきに取り組んでいらっしゃる。
今回お邪魔させていただいた工場の御夫婦・・・この方々。

仕事の手を留めて本当にごめんなさい。
ボイラーは何反も反物がたまらないと焚けないのにわざわざ応じてくださったのだと後で知りました。
私は丁寧に誠実に真摯に仕事にひたすら向き合うお二人にちょっと感動しておりました。
洗い張りの着物・・・分かりやすく説明するためにお客様のものを避けて、前日からご自分の着物を解いて洗って端縫いして見せてくださった奥様に心から感謝いたします。中々出来る事ではないです。驚きました。
本当にありがとうございました。
華やかなものに気持ちが行きやすいですが、地道なことを誰にも称賛されることなく黙々としかも低賃金で静かにこなされるこの御夫婦に心底感謝と感動を覚える私でした。
本当に良い仕事を見せていただきました。ありがとうございます。


       
       地味な仕事を黙々とこなす縁の下の力持ち
          こうやって皆さんにお伝えできるって・・・・
              何だか・・・ちょっと・・・素敵かも〜・・・♪

        時々目茶目茶めげることもあるけれど、ガンバロウ!!と思いもあらた

           ありがとう〜・・・・心からそう思いながらの帰途でした・・・〜☆