和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

最高齢86歳〜♪

その電話があったのは二日前。

間に立つ方が電話をくださった。
気がねそうに・・・御高齢だけどだめ?無理?・・と。

とにかく一度お会いしましょう・・そのあと決めましょうと。
それから30分後に我が和装組曲に来てくださった。

お話を要約すると・・こんな感じ。

かつては石川ではその道の代表者で会をしきっていらした。
何十年もの間。
でも寄る年波に今は老人ホームに入っているとのこと。
勿論役職は退き後輩にその道を譲った。
ある日着物を着ようと思ったら着られない。
何十年も着ていたのに従来のやり方では背中にすでに手が回らない。
でも自分で帯を結びたい。
なんとかならぬか・・・と。

かいつまむとそんな話。
従来は手結びではなく器具を使っていらしたらしい。
その器具も見せてもらった。
これではもう・・・無理だろう・・と想像はつく。

間に入る方が容赦なく言う。
「今からどれだけ着物を着る機会がある?いいやん、その時は着せてもらえば!」と。
それは自分で着たことのない方の意見だ。
一旦自分で着る事になれたらこんな楽なことはない。
人に着せてもらうと出来上がりの綺麗さに焦点が当たり、着る当人の着やすさ、心地よさには思い至らないのだ。
だいたい・・・美容師さんは自分で着られないのに人に着せる・・私から言わせればあり得ない話。紐の加減、襟の首に当たる具合、裾さばきするときの褄の上げ方の度合い、みぞおちと帯の隙間、肋骨と紐の位置・・・何一つ考えないで着せつけているのではないか・・とすら思う。

現に美容師さんで習いに着た方は自分で着ると目から鱗・・・
今までの着せつけは何だったの〜と思うと言われる。

話がドンドンそれていく・・・
とにかく自分で着たい、帯を何とか手結びで・・と。

しかしちょっと躊躇した。
なにせ86歳・・御高齢。いつ何時何があってもおかしくはない。

    ・もし指導中に何かあったら・・
    ・5回でできるとうたっているのに5回ではちょっと無理かも・・
    ・果たして1人で和装組曲に来れるのか・・
    
それより何より母親のような年齢の方からお金はもらえない。

間に入った方はお気楽なものである。出来ないならできないと断ってくれと。
でも本人が物凄く真剣。いつまでこうしていられるか分らないからこそ毎日気持ちよく過ごしたいのだと。
何度も頭を下げられてちょっと母とだぶった。
母ならこういうに違いない。
「年寄りに何度頭をさげさせるのだ!!」と。

「分かりました。お引き受けいたしましょう〜」
言ってしまったよ。言った瞬間からちょっと後悔。
大変なことになった・・・・と。



策をねらねば。


まず、看護婦(正確には看護師)さん・・現在何名かいらっしゃるので。
中でも大きな病院の看護師長さんがいらっしゃるのでまずはその方と同じ曜日&同じ時間に。
最悪の事態でも何とか対処できるはず。
次は指導を誰かに頼まないと。生徒さんは一人ではないのだ。
私がその方だけにかかりきりになれない。

で・・1人に白羽の矢。
老人ホームで働く方だ。勿論チーム・HASEGAWAのメンバーだ。
このブログでもコメントでご存じのケセラセラさん。

「やってみる?」
「是非やらせてください!」と。
本人の長年の癖を生かした指導を二人で考えないといけない。
癖をとっていたらどれだけでも回数が増える。
それは避けた方が混乱がないはず。

次は場所だ。
二階の教室は階段を上らないといけない。
で・・・一階にした。
ここはチーム・HASEGAWAのメンバーとの打ち合わせなどに使う部屋。
ちょっと狭い。しかし安全第一を取ろう。

次はやり方だ。
100分は長すぎて疲れるのが必至。
で15分して10分休む。
どのくらいの脚の筋肉かにもよるが立って15分は厳しいに違いない。
一回一時間位を目途。
で・・・椅子も用意した。


この椅子なら座りながら帯結びを練習できるはず。

後は・・・和装組曲に来る時の方法だ。
本人はタクシーでホームから・・と仰るが毎回往復のタクシー料金は高すぎる。
で・・・間に入った方に言う。
せめてうちに来るときくらい乗せて来て上げてくださいと。
帰りはタクシーを呼びますからと。

乗りかかった舟だ・・
日本が近代化する時代を迎える礎になるための一番大変な時期を過ごされてきた年代なのだ・・・
我慢され忍耐をしいられ、青春時代を過ごされていたに違いない。
その方が後顧の憂いなく最後に和装組曲で楽しめるならその一翼位は担いましょう・・と。
80代も後半になって何かを習おうと言う気持ちが凄い・・
本来車と言う物も、若い世代と言う物もそういう方々に役に立ってなんぼではないか・・と。
身内も身よりも1人もいない方である。
こういう風に関わり合ったのもめぐりあわせだ。
共に自分たちのできる事を社会に返すことにもつながりはしないか・・と。

などなど自分の持てる知識、話術を総動員しての説得を心がける。
「よし、分かった。往復を自分がやりましょう」と気持ちの良い返事を頂くことにあいなる。忙しい時はせめてくるときだけでも・・ということとなる。

あと慣れるまでは気心の知れた方が一緒なのもいいかも・・と。
しかし、下手をすれは余計悪い場合もある。
これはおいおいということで・・。

あと、代金。母の世代の方からはちょっといくらなんでももらえない。
「出来るようになっていただくだけで十分です。」というと
「そんなわけにはいかない。払わないと気が済まない」と。
確かに・・・。料金は払わないと気が済まない世代だ。
しかし、年齢などを考えると新しいことを覚えるのはとても難しい年齢だ。
回数がかかればそれだけ本人の負担も大きい。
こちらも早く仕上げようと思うと無理が生じる。

何とか折り合いのつく良い考えはないか・・・
で、成功報酬とした。
とにかく何回かかってもいい、普通の方から頂く分を最後にできたらいただく・・
出来なかったらいただかない。
回数は関係なく・・・こちらも勉強でもある。
「えっ〜・・・それってすごいプレッシャー」
当然。私だって凄いプレッシャーさ。
お互い様・・ということで楽しんでやりましょ、と。

そういうわけで今日から始まった
私は2〜3か月かかっても良いと思っている。
とにかく遊んでいただくつもりで楽しんでいただきましょう。
そして気分転換を兼ねながら孫娘位の方と和気あいあいとやっていただきましょう。
どういう風になりますか・・・またご報告するね。