和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

紅絹(もみ)の色

紅絹」と書いて「もみ」と読む。

紅花で染めた絹布の色をいう。夏咲く、黄赤色のアザミに似た花。

紅の染料は乾燥した紅花の花弁から取る。
花弁を摘み取るのは花の色の一番濃いオレンジを帯びた時のもので朝摘み取るのが一番綺麗な色だと言われている。

乾燥した紅花の花びらを一晩水につけ、翌朝ざるにすくって押し絞る。
最初は黄色の汁となって出てくる。これを繰り返し黄色の汁が一滴もでなくなるまで繰り返す。普通は七回・・といわれている。藁灰を樽に入れ熱いお湯を注ぎ入れ二日間寝かせるとアルカリ性の灰汁が出来上がる。その汁の中に絞った紅花を入れると花弁から色素がでる。その後、酸で媒染し色止めをする。
この色素を出すために樽の中で何度も何度も手でもむのである。
もんでもんで真っ赤な汁にする・・・この染液で染められた赤い色を、もんで染めたことから「もみ」という。

冷たい水の中でもむのだけれど赤い色素で手の血行が良くなり手はポカポカとするとか・・
色々な赤い色素・・朱色、猩々緋、橙色、臙脂色・・・がある。
「赤い色」は人間にとっては血の色であり、陽の色であり、火の色でもある。
生きていく根源の色・・そのものである。

はるかエチオピア、エジプトから西アジア、中国を通り飛鳥時代に日本にやってきたキク科の植物紅花。
「呉藍」(くれあい)と呼ばれるのは中国、呉の国から伝わった色だからかと。
ちなみに「藍」というのは藍色を指す場合と、染料を指す場合とがある。
「二藍」(ふたあい)というのは「藍」と「紅」の二色で染められたものに使う。赤味のある藍色。
そのうち機会があればお見せできることもあるかも。
別名「末摘花」ともよばれる。源氏物語の「末摘花」は違う意味合いであるので間違いやすいが。
この花びらの黄色の色素は木綿には染まらない。赤の色素は木綿にも絹にも染まる。

このように書いていても中々想像しにくいだろうから実際写真でお見せすることに。

まず・・これは、ショーの時にフラメンコを踊っていただいた時もの。

紋付に赤い色は二種類ある。


着物の比翼として裾周りや襟下に使ってあるのは木綿の赤。
帯として使っているのは化学繊維の赤。
ダンサーの方々のウエスト周りに艶と光沢を出したかったのであえて化繊の素材を使った。三人で踊ってもらうため同じ色でなければならなかったので化学染料の色は常に安定して一定の色が出る。


一方、実際「紅絹」の色は色落ちしやすい。


     をりをりをいまも締めつつ紅花染めの
          いろ褪(あ)せてなほ匂ふ帯ある
                      (畑 和子)


しかしあまりに色落ちしやすいので段々化学染料となる。
今では中々見つける事は出来ないのだが昔のタンスなどに眠っていたりする。

本当の「紅絹」の色・・・
色にこだわって着物の比翼は「本紅絹」で染めてどこまでもこだわってみた。


鬼の化身となって踊っていただいた時のもので西崎流 西崎萌葉さま。

フラメンコの洋の突き抜けた明るさや華やかさの赤とは一味違う・・
フラメンコを踊っていただいた方々の紋付きは完全な「黒」の絹をチョイス。
鬼の衣装は「黒」ではなく日本の古来からある何処までも黒に近い「墨色」にした。
黒に近い「墨色」はまさに「闇の色」である。闇の色の着物にぽっかりと月を箔で表現した。月があるからこそ真っ黒には成らぬのである。

真っ黒には真っ赤が映える・・・
墨色が映えるときは紅絹の色でなければならぬ。情念の赤である。
赤い色が着物から出る分量がこんなに少ないのに恐ろしいくらい 赤色に存在感がある。
赤い色がほとんど見えない下二枚の写真でさえ、残像として赤が目に残っているのではないだろうか。
人は人形ではない。動くのである。
写真ですらこうである・・実際動くとき、そんなに指し色の分量は多くなくてもよいと私がいつも言うのはこういう訳。
ただし・・・
ただしである。
ちゃちな色、ちゃちな素材ではこうはいかぬ。

そしてもう一つ・・
フラメンコの方々は三人・・皆さん帯も赤。着物から出る赤の分量も多い。
それに比べて西崎さまの衣装は帯は黒である。つまり着物も帯もほとんどが黒。
帯締め、帯上げすらも赤を使わなかった。
帯上げ、帯締めに赤を使えば赤の分量が多くなり鼻につくはず。
確かに華やかさはフラメンコの方にある・・・
しかし、存在感はどうだろう・・・



この紅絹は何処か怪しげでどこまでも独特の雰囲気を持つ・・・・・・・
日本人にしか理解できぬ色かもしれぬ、というと言い過ぎだろうか・・・・  


     紅絹(もみ)裂けば紅絹のあやしきにほひ充つ
          透きとほるまでの嫉妬をもてば

                      (生方たつゑ)