面白い言葉と出会った。
今琵琶で「月下の陣」という小曲を弾いている。
大曲に取り組む前に時々小曲を取り入れている。
今は秋と言う事もあり、「月下の陣」。
上杉謙信の軍と戦う兵士達が能州(今の能登)で野営をしている時の一夜の景。
冴えた月、儚い秋風、草むらで虫の声・・そんなところで草枕。
夜が明ければ散っていく身で家族や故郷を思う歌でもある。
その中に次のような漢詩が出てくる。
霜満軍営秋気清 霜は軍営に満ちて秋気清し
数行過雁月三更 数行の過雁月三更
遮莫家郷憶遠征 遮莫家郷遠征を憶う
この漢詩の前後に実に美しく無駄のない秋の風景と兵士の明日の戦いに向かう心境が描かれているのだ。
最後に出てくる「遮莫」と言う言葉。
「さもあらばあれ」と読む。
然も有らば有れ・・・の意味。
もともとは「たとえ・・・でも」の意味があるのだが、
そこから「不本意であるのだが、その通りにしておこう」とか、
「どうあろうとも、ままよ」とかいう意味を持ち
「なるようになれ」とか「なるようにしかならぬ」として使われている。
「なるようになれ」と言うと自暴自棄のニュアンス。
「なるようにしかならぬ」と言うと少し諦めの境地。
この漢詩の中では
戦場という自分一人でどうにもならぬ状況下、
静かに置かれた状況を受け止め、故郷を偲び、草の敷床(しとね)で自分の夢を空ゆく雁に託す。
穏やかにそして花々しく明日の戦いに臨もうとしている様子がうかがえる。
何とも「遮莫」(さもあればあれ)が引き締まった精神を示しているようである。
物凄く心にスッと入ってきた。
そして妙に心にかかる言葉だ。
遮莫・・・然も有らば有れ
何度もつぶやいてみる。
視野が静かに目の前に開く感じがする。
遮莫・・・然も有らば有れ