和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

名工に学ぶ3 〜絣加工・徳永弘氏に学ぶ〜

やっと・・・というべきか、ついに・・というべきか・・
行ってきました、京都西陣

       名工に学ぶ1〜和泉博山氏に学ぶ〜
http://d.hatena.ne.jp/umryuyanagi104/20131130/1385793977

       名工に学ぶ2〜片岡行雄氏に学ぶ〜
http://d.hatena.ne.jp/umryuyanagi104/20140404/1396587422

に続き第3弾。


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     名工に学ぶ 3  
              〜絣加工・徳永弘氏に学ぶ〜


昨年秋、京都の名工展でお会いしてより半年ぶり。
今回直接先生のアトリエに・・・
仲介の労を取ってくださった和泉先生とも工房で落ち合う事に。

確かこのあたり・・というおうちの扉を開けると


自転車のチューブの切り取られたゴム山積み。
「ひゃあ〜これって何?」
挨拶もそこそこに思わず叫ぶ。
玄関にドーンとおいてあるのでびっくり。
これは糸をくくる時に防染に使う。


糸をナイロンで巻き、その上から・・・こんな風に・・と直ぐその場で実践してくださる。


余りの早さにカメラが付いていけない。(笑)
先生・・ちょっと止まって・・「ストップ!!ストップ!!!」


こういう風に使うのだそう。成程。な〜ぁるほど・・・〜・
染料で染めた後・・



この防染した部分が綺麗になっていればいいのだが、境目の中に染料がうまく中に入らず白い部分がくっきり出ない場合もあるとか。
特に草木染の場合。で、どうするか。染める時に糸を手に持ちコンクリや木の部分に打ち付けているのを何かでご覧になったことがあるのではないか。特に沖縄などの染の紹介などで。
それがこの作業。染料を糸の中にまで入っていくようにとの目的もさることながら、本来染まりにくい防染の特に境部分にきちんと色を入れることもその目的。何度も何度も糸を打ち付けることによって境目ギリギリまで糸を綺麗に染めるのである。

染められた糸ができると次はそれを機に掛ける。
勿論手作業。これだけで話を聞いているだけで気が遠くなる。



普通の機織と違うのはこの「梯子」(はしご)と言われている機械が取り付けられるのが絣の特徴。




梯子(はしご)は上下119段ある。
上つ119段、下つ119段、そこに20本づつの糸を順番に通していく。
上つ、下つは呼び名で上の段、下の段とでも思っていただいた方が分かり易いかも。
20本の糸が上下交互になり畦(あぜ)をくむ。(荒畦という)
最終的には一本ずつの糸の畦(本畦という)に組むのだが。
梯子の高さが高いほど絣のずれ巾は大きくなる仕組みである。

今回の場合は経糸4760本で構成されているとのこと。
(119×2×20となる。織物は算数なのだ)
長さは1反分の14倍、つまり14反・・
一反13メートルとすれば182メートルの経糸である。


この糸が梯子の装置を通ると


こういう柄になるのだ。雨コート地らしい。
何から何まで手作業である。
この梯子なる装置に糸を通すのも勿論全て手作業。
一方糸が梯子の取り付けてある男巻(おまき)に行く前は




太鼓という装置に通っている。

中々長い。
全体を見ていない方には分かりづらい。
何か分かり易い撮影方法はないか・・と思案している私に
徳永先生が「いいものがある。」とミニチュアの装置を出してくださる。

上から見たら・・

通された配置の糸は

梯子を通る


梯子を通ったら

色目も鮮やかな矢絣となるのだ。


そして最後の処理まで実際に見せていただいた。
これは多分・・見られた方はそんなにいないはず。


糸の端を腰に巻いた縄に結わえる。
ここで20本づつになっていた糸を1本づつの畦に組みなおしていく。
余りに早くてよく目が付いていけていない。


4760本全ての糸を1本ずつの交差(本畦)する。
加減しながら調整して梯子の針金を抜いていく。
119本あるのだが5本ずつ実に慎重に抜いていく。


糸を綺麗に調整しこれを何度も何度も繰り返す。


梯子の針金がドンドン外され低くなっている ↓


ローラーを時々巻きながら糸のたるみ加減をなくす。

最期に無駄な糸を切り落とす。



梯子全て撤去。


最期の糸まできちんと処理して織の職人さんの所へ・・・・次の緯糸を織る作業が待っている。


一方この機には次にかける糸が待機している。



ひょっとして・・・私がこの最終段階を見られるように最後の処理を待っていてくださった?
どう考えても私の行く日に丁度終わるようになる、なんてあまりにタイミングよすぎる。
「最後の処理なんてそうそう見られるもんやないからなあ〜私も初めて見た。」と和泉先生。
本当にありがとうございます。
次の仕事に早く取りかかりたかったでしょうに。
心より感謝申し上げます。

単純な方が分かり易いかと思い書いてみた。

左のような染の経糸であっても
経糸に梯子をつけて経糸によって引っ張り加減をすることにより糸は右のようになる。
これが多分一番単純な絣だろう。これらを複雑にすることにより色々な柄が出来上がるのである。
因みにその時に若干できる絣柄の上と下の不揃い部分を「絣足」(かすりあし)という。
絣足の加減がこれまた美しい雰囲気をもたらしてくれるのだ。
今回見学させていただいたのは経糸絣というもので経糸にのみ絣で構成されたものである。
それ以外には緯糸絣もあれば経緯絣もある。
これは色々お見せできる準備もあるのでいつか機会があれば・・・
できなければ教室の方だけでもお見せしたいと考えている。


さて・・色々な絣があるのだがいくつか皆さんにも楽しんでいただこう。
私の見せていただいたのは数えきれないほどあったのだが、このブログの容量もあるのでそのうちのいくつかを紹介しよう。











絣足そのものがデザインに組み込まれているグラデーションの美しさである。
日本人って凄いね。


こういう絣には当然ながら設計図ともいうべき絣のデザイン構成図が存在する。





新聞紙を束ねる位ある・・(笑)


最後はお酒を頂きました。
徳永先生の一番の大好物の銘柄のお酒を封を切ったすぐのを・・・
奥さまの手作りの卵焼き、どこのどんな料亭にも負けぬ美味しいお味でしたよ。
これ本当。一枚一枚実に丁寧に焼かれ綺麗に仕上がった品の良いお味で、この奥さまのお客をもてなす心を感じて一層感激。
料理というものは不思議なものでその方の性格やその時の心情が実によく出ると思うのです。
ああ・・ご夫婦で私を歓迎してくださったのだと思わず胸が熱くなりました。
外国の方や芸大を出られた職人希望の方に何年間も技術を教えられ育てられて来た徳永先生と、それを陰で食事でサポートなされていた奥さまのおもてなしの心に触れて暖かい気持ちで帰りの途についた。



世間話にジョークを入れながら穏やかに和やかに話していらっしゃるかと思うと、こと仕事の話になったり、機の前に座られたりすると、目の光の強さが突然変化し、顔つきまで厳しく真剣に変貌する先生である。一生懸命説明してどうもこの人はわかっていないな・・と思ったら、とことん説明し付き合ってくださる。「ええか、これをこう持って一本一本こうして上、下といく・・ここまではわかるか?」あの切れそうな細い糸を一本一本「上〜下」と目にも止まらず本畦に組む姿はこの道何十年やっていることに対する正に職人の集中力の何物でもない姿。一本でも間違えたらこの反物は全て失敗となるのである。そしてそれは自分の仕事に対する誇りが許さないのではなかろうか。「まあ、こんなところかな?」「まあ、いいっかあ〜」そんなレベルの自分の仕事が恥ずかしくなる。最高の仕事を、しかも完璧にこなす・・・日々当たり前のようにそうやって何十年、現在八十半ばで元気に仕事をして来ていらっしゃる、実に頭が下がる姿ではないか。 
まだまだ先生のおっしゃることを十分理解できていない私ですが、自分の知りえたことを何とか一人でも多くの方に発信し、着物への理解と慈しみに繋げられたらどんなに素敵だろう。やはり織や染めの着物の現場は素晴らしい。長い歴史の厚みと重みと濃さを感じずにはいられない。こういう一人一人のたゆまぬ陰の力があるから日本の伝統衣装は今日まで存在できたのである。やはりこれからも工房見学はやめられそうもない。一流の職人魂に触れることはどれだけの研究書や解説書を読んでも決して得られるものではないから。



今回も和泉博山先生のお骨折りで実現した工房見学でした。
和泉先生、遥々徳永先生の工房まで足をお運び頂きありがとうございました。
徳永先生、仕事お忙しいでしょうに手をとめて貴重な時間をかけて説明くださり本当にありがとうございました。

最後になりましたが、このブログにアップすることを快くご承知いただきましたことを改めて御礼申し上げます。
この日だけで実に500枚以上の写真を撮らせていただきましたが、このブログの容量もありまして分かる範囲の写真にとどめおきました。
自分では当たり前に思う事でも現場を見ていない初めての方は中々分かりづらいこともあると思いますので、もしご質問や不明なことなどありましたら遠慮なく聞いてください。
私もまだまだややこしく、十分な観察、理解はできていないのですが、これもまたこれからの勉強の一環として取り組みたいと思っているのです。


最後に仕事場の壁に貼ってあったこの紙をご紹介〜・・・



          自戒

       つらいことが多いのは
       感謝をしらないからだ

       苦しいことが多いのは
       自分に甘えがあるからだ

       悲しいことが多いのは
       自分のことしか分からないからだ

       心配することが多いのは
       今をけんめいに生きていないからだ

       行きづまりが多いのは
       自分が裸になれないからだ