和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

吉野落ち



今年の7月の演奏会の琵琶の曲目が決まった。

     吉野落ち(下)

である。決まった・・・というより決めた・・と言うべきか。

最後まで「小栗栖」(おぐるす)とどちらにするかを迷いに迷った。
去年の春、京都へ行った時に明智光秀の殺された「小栗栖」の竹藪まで見に行ってきたりもした。
古戦場跡で沢山出る骨のお墓まで見てきた。

  「小栗栖」
   http://d.hatena.ne.jp/umryuyanagi104/20150413/1428879650


気持ちは九割方、いや九割九分九厘まで「小栗栖」だった。
変えようなんてこれっぽっちも思ってはいなかった。

それが突然変わった。
北方謙三氏の「波王の秋」「破軍の星」「武王の門」立て続けて読んだことが大きいかもしれない。
私は南北朝のことは余り知らなかった。いやいや、南北朝に限らずどの時代の事も知らない・・・
鎌倉時代室町時代南北朝時代がどんな順番で誰が統治していたのかもかなりややこしい。
どなたかに突っ込まれる前に自己申告しておこう。(笑)

琵琶に「紅葉狩り」という曲がある。
その中に後醍醐天皇や沢山の血が流れた南北朝を悲しく歌っている曲だ。それはそれは美しい曲である。
その時まで平家物語や戦国時代、江戸時代後期等を題材にしたものは練習していたのだが、南北朝がいかようなものなのかが全くイメージ出来なかった。



瑞閏さんのブログで「波王の秋」の事が出ていたのでちょっといつか読んでみたい・・という程度にしか思っていなかった。それが散歩途中にまるで「見つけて!!私はここよ!!」とでも言うように公民館の書庫で一瞬にまるで浮き出ているように目についたのだ。背表紙の青い色の何と鮮やかな事。これは読むべき・・・と借りて帰る。物凄く面白かった。一晩で読んだ。じゃあ・・・とばかりに「破軍の星」を注文した。これが又一気〜。私の中では最近の超ヒット作。その本のなかで鎌倉に幽閉されている「護良親王」(もりながしんのう)という天皇の皇子の名前が出てくる。主人公、北畠顕家が何としてもその親王を助けようとする並々ならぬ思いの場面がある。天皇の御世を盤石にするためには何としても「護良親王」を助け出さねばならない・・・それほど力も才能も人徳も有った人だという。結局はそれを恐れた足利尊氏の弟、足利直義の命によって殺され助けることができなかったのであるが。

何と言う偶然か・・・・
其の頃ボイストレーニングで「鎌倉」という歌の譜面を渡された。
その六題目に

   鎌倉宮に もうでては
   尽きせぬ親王(みこ)の みうらみに
   悲憤の涙 わきぬべし
               (作 芳賀矢一)

登場するのだ。何と言う偶然。
これはもう少し勉強しろと言う神の啓示(大げさ〜笑〜)
で今度は「武王の門」を読む。
これがまた「護良親王」の弟「懐良親王」(かねながしんのう)の話。名前が余りに似ているので頭がこんがらがり、何度も見直したこともある。でそこにも時々「護良親王」の名前が登場する。「護良親王」はいかなる人なのか・・・・。
北方謙三氏の書物の面白さもさることながら全く今まで知らなかった南北朝のころの事に興味を持つようになる。

何と・・・そんな時である。
琵琶の先生から渡された譜面。
それが「吉野落ち」だった。



あ〜ぁ・・・いつもながら何と言う前置きの長さ。
要領の悪い説明。つきあって下さってありがとう〜♪

その「吉野落ち」(下)・・・について。やっと本題。
心配ご無用。本題は前置き程は長くない。直ぐ終わる予定。(笑)
吉野落ち、(上)もやらないのに一気に(下)に行く。諸事情につきご容赦を。

村上義光、義隆親子の話である。義光・・と書いて「よしてる」と読む。
この親子、「護良親王」を逃すために命を掛ける話である。
その命の掛け方が並ではない。
凄まじすぎる。

義光は一の木戸が破られた段階で親王に申し上げる。
「とても籠城できるだけの兵力はございませぬ。後は私にお任せいただいて早く逃げ延びて下さい」と。その時に親王の御直垂や御着背長をどうか私に下さいとも言う。其れを着て親王の身代わりとして敵兵を引きつけ少しでも時間を稼ぎましょう。お名前をかたる非礼をお許しください・・・と。親王は自ら着物を手渡しこう申される。



   われ若し生きのびたらば  
    汝が後生を弔らはん 
    又打死にをなしたらば 
    同じ冥土に伴ふべし 
    是今生の別れぞと 
    言葉少なく宣ひて 
    涙ながらに落ちさせ給ふ
 

 
そして義光は櫓(やぐら)の上に登り大音響で叫ぶのだ。


   我はこれ神武天皇より九十六代の孫(そん) 
   今の帝の大三の皇子 一品兵部卿護良親王なり

            ※一品・・・・「いっぽん」と読む。親王の位のなかで第一位の位階。
            ※兵部・・・・兵の司のことで律令制の中で軍政を扱う省の一つ。

   逆臣原に悩まされ 
   恨みを泉下に報ひんため 

            ※泉下・・・・死後の世界

   只今自害するところなり 
   是を見て汝等が 
   身に備えたる武運つき 
   腹を切らん其時の 
   手本にせよと呼ばわりて
   鎧を抜いで投落とし 
   錦の直垂に練貫(ねりぬき)の 
   二重小袖を引きくつろげ 

            ※練貫・・・・「練緯」の意味で経糸は生糸、横糸は練糸で織られたもの。
と続くのだ。
その自害の仕方がなんとも壮絶なので此処では書かぬ。
見目麗しいおねえさん方や、シャイでナーバスなお嬢さん方が悪い夢を見ても困る。
そして・・・ 

  
   伏して果てたる義光が 
   最期のさまこそ勇ましけれ

と、続く。
恐ろしい歌でもある。私自身もうなされそうである。

しかし、その芝居がかった櫓の上でのあり様に多くの兵がたじろいで息を呑むその隙に親王は少しでも遠くに逃げるのだ。勿論櫓での義光の切腹の光景を見ていたのはおよそ五百余騎、後の五百騎近くは親王達を追う。そこに義光の一子、義隆が立ちふさがり1人で父の教えに従って、その五百と闘うのである。勿論1人で五百騎と闘うのだから、普通では無理である。細い九十九折りの道に誘い込み渾身の力で進路を阻むのである。全身矢を射られ凄まじい有様ではあるのだが、「もはやこれまで・・」と最後は竹やぶで自害するのである。

深手の矢疵十余け所 
薄手の疵は数知れず 
最早これ迄とや思ひけむ 
とある竹村に馳せ入って 
腹掻切ってぞ失せにける 


この両名の親子の奮闘で親王比叡山に落ちのびることができるのである。
この護良親王は一時「尊雲」と称され大塔宮とも言われ天台座主でもあった。
奈良、吉野、高野などに潜行されたが最後鎌倉で足利家臣により殺されるのだがそれが1335年。
丁度この義光が自害した2年後の事であり27歳の余りにも若い命でもあった。
広辞苑には義光の事は「護良親王の身代わりとなり死亡した」旨、書かれていた。
身代わりで亡くなったのは事実のようである。

普通の切腹ではないので物凄く躊躇われ随分迷った。
全くの架空なら逆にそれはそれで割り切れるのだが。
辞書には信濃出身とある。
ちょっとやんちゃな雰囲気は否めない。
「村上家」というのは海賊のからむ水軍の家系にもあるのでその係累かもしれぬ。

品よく「小栗栖」に集中するか・・・
いやいやこの流れでは「吉野落ち」をするしかなかろう…

随分迷ったのだが、流れを取った。
結局「吉野落ち」に決定。
かなりやんちゃではあるが、この勢いで歌うにはもう少し年を取るともう無理だろうかも・・と。
しかし・・・しかし・・・である。

琵琶の練習は朝と夜、少しずつしているのであるが朝、この暗い歌を歌うと気持ちが物凄く暗くなりとっても疲れるのだ。
モチベーションが下がると言うか〜、悲観的になるというか・・・(笑)
で、仕事に疲れきって夜練習すると、これがまた怖い〜。。。
夢に見そう〜。うなされそう〜。

そうして雲龍柳の3月は始まり・・・7月まで続くのである。
日中は明るく・・・・明るく・・・・・
ともするとどんよりするわが身を励ましつつ日夜仕事に励む健気なお婆である。
琵琶の演奏会は7月17日(日)、石川県立音楽堂である。
近くなったら又お知らせしますね。
暑いさなか、和装組曲のメンバーが着せ付けを担当します。
興味のある方も、ない方も(どっちやねん〜)一度は聞いてみて下さい〜♪




・・・・・・・・・・・・春の訪れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪・・・・・・・・

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先日食事をした。
高校三年生のこのお嬢さんと。
卒業式の日、一緒にご飯を食べたいというので。

小学一年生の時、彼女は登校時(下校時だったかも、あやふや)、横断歩道で車にはねられた。
小さな彼女はポ〜ンと飛ばされアスファルトの道に叩きつけられた。
そして高校生の時まで色んな病院に入院したり通院した。高校生の時には大学病院もあった。
十余年、彼女の母も家族も、勿論本人も物凄く辛かったと思うのだが、微塵も感じさせないくらい今は明るくて屈託がない。
人生本当に何時不運が襲ってくるかは分らない。しかし、よく耐え頑張ったと思う。
4月からは1人暮らしをして大学に通うとのこと。
「したい事をみんなしたい〜。後悔のないように〜。」と本人の弁。
横で彼女のお母さんがハラハラしながら見守っていた。

彼女の未来に幸あれ〜と祈る〜★☆★