和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

黒留袖の女(ひと)〜part2

前回黒留袖の人の事を書いたその夜電話があった。


話を聞くとなんと我が教室を名前を知ってから三年迷っていたと言う。
多分どなたもそうであろうが、新しいことに取り掛かる時、意外とパワーがいるのである。まして日々の暮らしやフルタイムの仕事がある。行こうとする所がどんなところかもわからぬ。しかも近くならいざ知らず、専用の高速の海浜道を使って一時間弱。行き始めたらどのくらいかかるかもわからぬ。誰でも迷って当然といえば当然なのだが・・・・しかし三年の迷いは長い、長すぎる〜(笑)。

その方も私のブログをいつも読んでくださっていたようだ。足の怪我の事なども実によく御存じであった。
そんな怪我なのに仕事が出来るのかさえ多分不安だったに違いない。
心配そうに聞かれもした。
「大丈夫さ〜・・・私は不死身さ〜大蛇(おろち)のようなお婆さ〜☆」(笑)
身体はボロボロでも気持ちは結構しっかりしている・・・つもり。

今回黒留袖の人の事をブログで読んで行くならまさに今と思ったらしい。
三年の迷いを踏ん切り電話をかけてきた・・というわけ。
火曜日の夜練習に来る、という。
日曜日に・・・という彼女をむしろ私が強引に火曜日にした、と言えなくもない。
だって黒留袖をするならボヤボヤしている暇はないのだ。
自己流で着物を着ているという彼女、ひょっとしたら変な癖も付いているかもしれぬ。どの程度着る事が出来るかも見てみないと分からない。
一日でも早く見てあげて直してあげると後は少しずつ家で練習すればよい。


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                       ・・・・・・・・・・・・・♪・・・・


で・・・火曜日の夜・・・の教室。
仕事で疲れた体に鞭打ち(笑・・・単に想像)、暗い夜の路を来てくれた。
常連のけいこさんと彼女、仮りにその方の名前をくみちゃんとしよう。
二人は養成コースの方に混ざってまず黒留袖を自己流でもなんでも着てもらう。
どの程度、直さないといけないかもわからぬので。

まずは比翼の衿をどの程度、どのあたりで止めればいいかも見たかったので一切糸で止めずに二人に着ていただいた。どこが良くないかを見たいので、普通に楽に着てみて・・という。


まずけいこさん。
一切の手直しせずの姿である。


多分ご自分でもこの写真を見て分かると思うのだが
右手の力が左に比べて強すぎ。
だか背中の左右の引きが右の方に若干寄っている。
お太鼓も右手の方が上に上がりすぎなので少しだが右が上に行っている。
そこを手直しすればお太鼓の大きさも少し小さく落ち着き、もっと素晴らしいだろう。



初めて自分で着た黒留袖の姿・・・とても綺麗だと思う。
重い留袖なのに実にすっきりと着ている。
特に後ろから見た裾つぼまりが凄く綺麗だ。
普通はこうはいかない。
しかも10分程度しかかかっていない。
勿論最後まで鏡も見ていない。
いつも着物を着ているだけあって早い、早すぎ〜。
養成コースの方々から
「上手すぎ」と声がかかる。

これだけ初めて着られたのだから後は一人でできる。
ゆっくり、ていねいにを念頭に心がけられたら十分である。
衿も実に綺麗に決まっていた。
お見せできないのが残念ではあるのだが。

次にくみちゃん。
この方は20分かかるかかからないか・・というところ。

前が若干広くなってしまったがこれは初めて着られたのですぐ慣れるはず。
おいおい直って慣れて行くはず。あと褄は少し上げて着られているのだが、裾はあげないで床と平行に着られた方が美しく上品だと思う。
しかし、初めてとしては上出来。自分でこれだけ着られるなら自信をもって着てほしい。

一番心配していた帯の結びも、自己流なりに一応ゆるまない結びで完成しているので触らないことにした。
下手に今触れば一ヶ月後の結婚式までぐちゃぐちゃになるので。
美しい着方だと言ってよい。
衿も本当にお見せしたいくらいに美しい仕上がり。
お顔を載せるわけにいかないのでお見せできないのが残念至極。
背の大きい方なのでできれば半襟に刺繍の襟を使われた方がゴージャスな雰囲気が出るのではないかとも思うが、本人はすっきりした白い塩瀬の半襟が好きだと言われたので「御意」。

自分で自己流と言われたが実に上手。
比翼もこれなら縫わなくてもこの方は着られると思う。
指導を担当したケセラセラさんも「上手〜♪」とびつくり。

背中の紋の合わせ方、抱き紋の位置など、少しアドバイス
「あとは注意されたところを気をつけて練習してみて。」
この方は美しいのがどういう物か知っていらっしゃる。だからあとは練習だけ。
「もう来なくてもあなたは大丈夫」
という私に
「えっ??そんなこと言わず、私は来たいんですが・・・」
と。
それこそお金の無駄、時間の無駄。もう綺麗に出来上がっている。
90歳近くのお母様にも着せてあげたいとおっしゃる。
一度着せてみて上手くいかないところを今度聞かせて・・という。電話でもいい。多少のアドバイスはできるだろうから。
老いた方は筋肉があまりないので着せつけに時間をかけないことだとアドバイス

習わなくてこれだけ自己流で着ることのできる方もいる、凄いね。


さて・・ついでといってはなんだが、けいこさんの留袖をちょっと使わせていただいて一つ・・


模様の合わせ方として「松と藤」を時々見られると思う。

文学からとられた組み合わせとして
伊勢物語」からは「八つ橋と杜若」、「蔦と笈」などがある。
源氏物語」では「風景と猫」で若菜上、「煙幕と楽太鼓と鳥兜」で紅葉賀、「風景に虫籠」で野分を暗示するように色々な柄を合わせながら見る人に何かを連想させる・・・というのは良く使う柄の合わせ方なのだ。

左下の柄は格天井。重々しく格調がありしかも華やか。
この「松」と「藤」の組み合わせ・・・これは清少納言枕草子からくる組み合わせ。
「いとめでたきもの」として「松」と「藤」をあげているところからくる合わせ方。

たまたまけい子さんの留袖の柄が「松と藤」だったので・・・ちょっと余談の話。

ついでに・・・くみちゃんの柄行き。

普通雲の中に柄が入る。それは「雲取り」というのだが、これは雲と雲の間に柄が入る。これを「逆雲取り」(さかくもどり)という。
逆雲取りの中に「色紙」を散らし色紙の中に季節の柄を取り入れている。
雀やウグイスなどに
「かわいい〜!!いいなあ・・〜♪」
と鳥好きなけいこさんの声。

やはり女性は柄に物凄くこだわりがあるのだ。
くみちゃんも結婚の時にお母さんから作ってもらった黒留袖を今度は自分の子供の結婚式に着る・・・
そして年老いたお母さんに着せつけてあげる・・・
な〜んて素敵なこと。

昨日までは知らなかった者同士、着物というご縁で知り合いになった。
くみちやん、けいこさんを見て
「海に石を投げる人?ってこの方??」
そうそう。。。笑い声がこだまする。


何度ももうやめようと思った我がブログではあるが、こういうご縁を頂くと続けていて良かったかも・・・とも思う。