和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

美容師Yさん&お友達

最近生徒さんに美容師さんが増えてきた。
美容院を経営している方もいれば、これから独立を目指す方もいる。
美容師として勤めながらも着せつけの技術を習得したい、スキルを落ちないように維持したいという方々である。

Yさんもそのうちの一人。
ゆくゆくは自分で独立を・・と思っているようだ。
名古屋帯袋帯などをトルソーに着せつけながら
一週間に一度、二週間に一度、お店の休みの時に習いに着ていた。
小さな子供さんがいて仕事をしていて、なおかつ何かを習う・・・というのは半端なことでは続かない。
特に習いに来たその時だけ一生懸命すればなんとか・・・という所ならいいのだが、うちのように習いに来るその時よりその前も後もしっかり練習しないといけない所は中々難しい。途中でドンドン諦めていく人が多い。

実際、何とかなだめたりすかしたりして続けさせても何時かはやめて行く、諦めて行く・・・という方は早くやめられた方が時間も労力もお金も無駄にならなくて良いのだと思う。だから無理に続けさせることはしない。
実際自分の仕事の技術がやればやっただけ上がって良いと思うのだが日々の生活は中々難しいものがあるようだ。それは良く分かる。
「頑張る!!」と気合を入れたところで続く方はほんの・・・ほんの・・・ほんの一握りだ。
Yさんは小さなお子たちが眠ってからトルソー相手に練習を重ねていた。

そのYさん・・・
お友達が結婚式に列席するので黒留袖を着せてほしいと言ってきたとか・・・。
練習するには絶好の機会。お友達もYさんの練習台になろうと決めたようだ。
「自信ない」と不安気な彼女。

自信が持てるまで待っていたらそれこそ何年かかるかわからない。
お友達で練習台になってくださるというならやらない手はない。
「やれるかなあ〜」と心細げに言う。
私に意見を求めるな・・・自分で決めろ・・・と言う。

「やれるか」or「やれないか」で考えてはいけない。
「やるか」or「やらないか」という自分の意志の問題。

そして「やる」と決めたら何処までも練習することだ。
必死にがむしゃらに頑張ることだ。
一生頑張り続けろ・・とは言わない。
少なくてもお友達の結婚式参列の日までとりあえず頑張れと。
「付き合うよ!!」と私。
そこから毎日の練習となる。
Yさんは家でどの程度練習したか・・・彼女しかしらない。(笑)


で・・・・今日が本番の日。
朝八時にお友達と来る約束。
私は五時に起きる。
すぐ職場の暖房を入れる。
まだまだ寒い。
二時間はしっかり暖房を入れておかないと・・・
七時半、両手両足捻挫でまだ自由に動けないかもしれぬ私の代わりに頼んだチーム・HASEGAWAのメンバーが来る。
軽く打ち合わせをして、できるだけYさんに着せつけをさせてあげるよう配慮する。

八時に美容師Yさん、そのお友達Mさん来店。
Yさんに準備をさせでは始めよう・・・と。

八時十分着せつけ開始。
一番難しい所は中々上手くいかず、私がほんのチョビッと手を貸すが何とか最後まで本人頑張る。


出来上がりが八時半。正味20分だ。
途中気に入らない所もあって何度かやりなおした所もあるので、私が考えていたより若干時間がかかった。
せめて15分で仕上げるように・・・と私。
まだまだ無駄な動きが一杯あり目に付く。
チーム・HASEGAWAのメンバーでは8分半。
いま彼女たちは8分を切る勢いで練習している。
普通は丁寧にやって15分くらいで十分かと。

まあ、無理もないところもある。
実はこの日の黒留袖、ちょっと難しい代物だった。

完全に二枚の仕立てである。
黒留袖と、白い比翼の下重ね襦袢。(それとは別に白い襦袢もあるのだ。)
今はこういう仕立ては重いのと、着にくいので簡単な「比翼仕立て」になって
襟と衽の裏にしか白い布がついていないのだが、この黒留袖、完全に二枚である。
それを着せるのだから、初めて挑戦したYさんはものすごく健闘したとも言える。
結構上手に着せる美容師さんでもこれは中々綺麗に着せるのは至難の業。
勿論、補正は一切していない。
裾が開いてくるほどどっしり重いのだがYさん、綺麗にすっきりと着せている。

今時、こんな本式の留袖はものすごく珍しいね・・・とMさんに言うと
「お母さんの」とにっこり。
お母さんはこれに一度も手を通すことなく亡くなられた。
なんと52才で。娘の結婚式を見る事もなく・・・。
Mさん・・しんみり。
今日は着物姿をお父さんとお兄さんに見せるのだと。
「二人とも、きっと泣く」と。
「だって、着物を着た私、お母さんにものすごくそっくり」と。
結婚式場に入ると、きっとお母さんの兄弟、姉妹びっくりするわ・・
あまりにお母さんに似ているから・・と。

良かったわぁ…気に入ってもらえて。。。

結婚式に出席した後、皆でお母さんのお墓参りをしよう〜・・・といって行かれましたよ

お墓の中で自分が着られなかった留袖を瓜二つの娘が着てくれてきっと喜ばれているはず・・・・・

やっぱり・・・いいなあ・・・・着物って!!! ねっ〜!!!
家族の心にひっそりと生きているお母さんの姿が
お母さんの着物を着る事で再び鮮明に有りし日がよみがえるのだから。

着物姿もいいけど、今日はMさんのさっぱりした性格も殊に素敵だった。
友達の為にまさに一肌脱いだ姐さんさ〜。。。
まさに「ハンサム・ウーマン」そのもの。



   春あらし吹きさわだてるあしたより
              蕾はほぐるる木蓮の花  ( 柴生田稔 )


     きりりと清々しい彼女、まるで白木蓮の花・・・・〜・・