和装組曲♪

・・着付け教室、琵琶演奏、能面制作などに勤しむ日々のあれこれをグダグダと綴ります・・

網目

先日のブログで漁師である爺ちゃんの話をちょっとしたら妙に懐かしくなった。

ものすごくお洒落な人で私の記憶には着流しにツッポ(筒袖)の半纏を着て両手をその中に突っ込んでいつも遠くを見ていた姿が記憶にある。その半纏の襟には汚れないように黒い繻子の掛け襟が付けてあった。
いつも海の水平線近くをじっと見て海の状態、空や雲の動き、波の立ち方などを黙って見ていた人だった。
明日舟を出せるか・・・やめるか・・・どのあたりに網を置いてくるか・・・そんなことを考えていたに違いない。
漁に行かないときは網の繕いや浮きの具合をよく調べていた。
小さな舟で遠くまで漁に行く爺ちゃんによくへばりついてくっついて回っててこずらせていたものだ。
舟の舳先が緩やかにまげられて美しい曲線を描く木の美しさはどうやってできたのか・・木でできた舟が何故沈まないのか・・何故水が何処からも入ってこないのか・・良い舟が高いわけなど網を修繕しながらじいちゃんはとつとつと話してくれた。私も浮きを遊び道具に舟小屋近くでなんでもよく質問したものだ。

浜処(はまどこ)の女は気性が激しい・・・とよく言われる。
私に言わせればそうではない。
北陸の荒い風、激しい波音、板子一枚下は地獄で働く男たちと一緒にいれば
言葉一つ単刀直入、無駄な前置きなど不要である。
言いたいことを一番わかりやすい表現でストレートにはっきりと簡潔に言う・・・・それだけではないか・・と思う。
沖に出ていく人に、又帰ってくる舟の上の主に必要なことだけ手短に、一声か二声しかも大きな声でないと聞こえない。回りくどい言い方は不要なのである。
「気性が荒い」のではなく「言葉が荒い」だけではないかと。
前置きはこれくらいにして(前置きというより自己弁護というべきか・・・)
・・・今日は網を繕う爺ちゃんを偲んで・・・「網目」の文様を。

          「網目文」&「網干文」

魚を獲る網の目を文様化したものを「網目」という。
同じように鳥を捕る網の物もそういうのかは確信がない。
藤井健三さんの監修した着物検定の本には鳥の網も含まれているような表現が見受けられるが
他の書物ではあまり見ない。
割り付け文様の一つ・・・

「割り付け文様」とは地紋あるいは部分的なあしらい文様として着物には欠かせない。
お絵かき帳でやっとこさ書いたのに、ふと気がついた。
先日食べたお刺身のプラスチックの皿に網目模様があるではないか。
これに気付けば苦労して書く必要もなかった。(は、は、は・・・結構楽しく使って遊んでいただけ)

「網目」はこれからの暑い時期、活躍する文様の一つかもしれない。
魚とからませたりして「大漁」を暗示させ漁師の方々に愛好されたり、「一網打尽」という言葉からの連想で勝ち戦を連想させることから武士にも好まれた紋とか。

三角状に干してある網を文様化したものを「網干文」(あぼしもん)という。

主に夏の衣装に多い。千鳥、海、波、浜、葦の葉などとともに描かれるが若い方の衣装には案外少ないような気がする。網干そのものが趣味性が強いからか・・と。網や網干はちょっと渋い感じがして私は結構好きだった、若いころ。
何時だったか江戸小紋の網目を着ていた時、その時の自分がふと網にかかった巨大なアンコウや猛禽類を想像してしまいそれ以来なんとなく全身網目柄は着なくなったことがある。網目の大きさで微妙に印象が変わるようである。
余談であるが・・・余談ばかりで前に進まない・・ごめんなされ〜♪
葉のない竹の節だけの江戸小紋を着た時、何かの拍子に人間の骨に思えて見えた時もあり、それ以来その着物は着られなくなったことがある。勿論若い時の話。今はなんでも平気であるのだが。どうも私はものすごく繊細な女のようである。(十分ご承知とは思うのだが)

家紋としてはとくに武士の紋としてよく使われたようで縁起の良い紋として二つ、三つ干し網を重ねた物を図案化したものもある。

東京浅草、浅草神社は網紋を神紋としている。

本当か嘘かはしらない・・・・(笑)
推古天皇のころ、現在の隅田川あたりに海が広がっていた。
漁をしていたものがいつものように網を広げて魚を取っていたがその日は魚が一匹もかからなかったそうな・・・。でも、ふとみると網の中に一寸八分の(この辺が本当らしい数値が入っているところが案外疑わしい気もしないでもない、でも素直に信じよう。)金の観音様が入っていたと。その観音さまこそが大慈大悲菩薩だったそうな。浅草にお堂を作ってその観音様を祭ったが霊験あらたかでそれが今の浅草神社、で浅草神社の神紋が網紋となったそうな。
推古天皇の時に創建された浅草寺の本尊がその観音様ということらしい。

この辺の詳細は「面白いほどわかる家紋のすべて」(日本文芸社)という本にもっとくわしく出ている。魚を獲っていた人の名前まででている。
私はこの本の受け売り。1400円ほどの本。家紋の事が詳しく分かっておススメ。
これは商品のところになかったのでお見せできないのが残念。
あと「家紋と名字」という西東社からでている1200円の本も切り口が違って面白い。
名字と家紋の関係を解いてくれて読みやすいし、武士の家紋などと合わせながら家紋や名字のルーツにまでさかのぼれるのでそれもまたそれで面白い。何より紋が美しい。

私がお絵かき帳で見よう見まねで書いた「沢瀉」(おもだか)があまりに下手くそで皆さんにはおおうけしていただいたのだが、
  その下手さ加減のせいで本当の形が分からない・・・
  なんかもうチョイましに書けんかったのか・・

と言う方、言った方、とくにこういう本を一冊手元に置くといいかも・・・。

決定版 知れば知るほど面白い!家紋と名字

決定版 知れば知るほど面白い!家紋と名字


話を戻すね・・・
「網紋」、優美な曲線が交差し、延々と続く幾何学模様・・・
しかし、時々模様が欠損したり破れたりしているものもある。
これは「網紋」に限らず、麻の葉文様や、檜垣文様、紗綾形、籠目、亀甲などの文様でもみうけられる。バックの模様として配置するには完全なものより味わいがあるし他の模様を描きやすいということもあろうが、・・・・

    何よりゆがみやいびつさを愛でたり、
         ひとひねりした不完全さなものの中にわびさびを見出す
                       日本独自の美意識かもしれない

とは『着物文様事典いろは』の中の著者の言葉。

着物文様事典いろは―明治・大正・昭和の着物、帯の図柄 (弓岡勝美コレクション)

着物文様事典いろは―明治・大正・昭和の着物、帯の図柄 (弓岡勝美コレクション)

この本の28ページに躍動感あふれる真っ赤な鯛が網にかかっている美しい図柄の絽の帯を見る事ができる。金の糸で網目を刺繍してあり美しい。

一部破れたり、欠損しているものを「破れ網」とか「破れ亀甲」という言い方で表現する。
ご自分の着物の図柄を見ていただくと何か一つはあるのではないか・・・

      亀甲    破れ亀甲
      麻の葉   破れ麻の葉
      七宝    破れ七宝
      青海波   破れ青海波
      檜垣    破れ檜垣
      網     破れ網

立涌とか籠目は破れ・・といわず「立涌取り」とか「籠目取り」とかといういい方がなじみがある。そのあたりの区別は何故なのか・・・私はしらない。
ケセラセラさんや、レインドロップさんの調査スキルにおまかせしよう〜♪